63 幸せの印 【63-2】

【63-2】

「ごめん、起こした」

「……起こしたわけじゃないな、寝てなかったし」

「寝ていなかったの?」

「眠れていなかったという方が正しいか。知花が起きてくるのがわかったから、
俺も、ベッドから抜け出した」


紘生は、コップに入れたチューハイの残りを飲む。


「親に会いに行ったところで、別に何も変わらないと思っているつもりだったのに、
緊張しているんだと思う。いや、緊張から解放されたのかもしれないけど、
まだ、実感がないというか」


紘生の言っている意味は、なんとなくわかる。

長い間のいざこざが、全面解決とまではいかなくても、

それなりに決着をつけることが出来たのだから。


「あんなに遠い場所だったのに、知花のおかげで飛び越えられたよ」

「紘生……」

「うん……」


缶に残ったチューハイを、もうひとつのコップを出し、2人でわける。


「私、夢を見ていたの。前にお母さんとお会いしたでしょ。紘生に内緒で」

「うん」

「あの日のように、お母さんが番場さんのところの弁護士さんを呼ぼうとして、
で、私、どうしようと思って、紘生のことを呼んだのに、
紘生ったら背を向けたままで無視して、どこかに行こうとするから」


紘生が外国に行っていた頃のお金についてなど、

書類をいきなり出されたときのように、どうしたらいいのかと、焦ってしまった。


「無視したって言われても、それは知花の夢の中だろう」

「そうだけれど」


紘生が起きてきたので、あらためて冷蔵庫を開く。

スーパーの特売で買ったチーズが、そこにあった。


「ねぇ、ちょっとだけ食べる?」

「うん」


電車も終わってしまった静かな夜。

小さなチューハイを二人で分けて、チーズを少しだけかじる。

1本を二人でと思っていたのに、ゆっくり飲み始めて30分。

気付くと2本目に入っていた。

どちらからだったか忘れたけれど、今日見てきた社長室の寸法について話し出したら、

互いに頭に浮かんだデザインのことがどんどんあふれてくる。


「書類棚は、紘生の机と高さをあわせた方がいいよね」

「あぁ、高さか」

「統一感を持たせるためには、それがいいと思うの。
ほら、『エアリアルリゾート』の時もそうだったでしょ」


『エアリアルリゾート』。年配客を意識したペンション形式のホテル。

ちょっとした贅沢を演出する備え付けの家具たち。


「それに……ほら、つけていたでしょ、飾り彫り。あれ、いいよね」


頭の中にあるデザインに、私なりにアレンジを加えていく。

光りの入る大きな窓を、しっかり生かして……

段数は少なくてもいいから、深さが欲しいって、そう話してくれたし……



紘生の家具と、歩調が合うように……


「知花……」

「……はい」


紘生の声がした。


「……ほら、ここで寝たらダメだよ」

「ん?」


デザインについて語っていたはずなのに、気付くと目が重たくなっていて、

すっかり眠りに誘われている。


「うん……ちょっと気持ちいいから」


そう、ここに寝ていても、誰にも怒られない。

私たちは、もう誰に遠慮も、反抗もすることなく、未来に向かって進める。


「紘生……」


なんだろう。体がふわふわっとして……

明日も仕事だよって、紘生の声がした。

すぐ、隣で……



冷たい場所は嫌、あったかいところがいい。



そう、そこでいい。



おやすみなさい。





「私が?」

「そう、紘生のベッドに寝るって言うから、連れて行った」

「ウソ! 言ってない」

「あぁ……そうですか。いいですよ、酔っていたんでしょうね」

「ほら、早く」


次の日、私たちは少し寝坊をした。遅刻するかもしれないギリギリの時間。

慌てて家を出て、駅に向かう。


「知花、電車が来た」

「うん」


本当はわかっている。私が自分でそう言ったこと。

酔いの回った私を、紘生は部屋へ届けてくれたけれど、

私が冷たいベッドは嫌だとごねて、紘生のベッドにもぐり込んだ。

彼のぬくもりがそこにあれば、すぐに眠れることを知っているから。


「ふぅ……乗れた」

「あぁ……腹減った」

「駅降りたら、コンビニに寄ろう」

「そうだな、タバコ買いたいし」


私たちは一緒につり革に捕まり、なんとか間に合う時間に駅へ降りた。




【63-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『結婚式』の花嫁衣装。ウエディングドレスは9割、白無垢が1割。
両方チョイスという人も多いそうです。
ちなみにお色直しの平均は1.3回。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント