63 幸せの印 【63-6】

【63-6】
私たちの式には、和歌山から迫田のみんなもかけつけてくれて、

おじいちゃんももちろん、嬉しそうに笑ってくれる。


「いやぁ……知花のこの日を迎えられて。もう、これで何も思い残すことはないな」

「何言っているんですか、お父さん。知花の子供を見たいって、言っていたでしょう」

「おぉ……」


おばちゃんは今日も元気だし、みんなが明るくなるようなことを言ってくれる。

結婚式をすることにしてよかった。

結婚は、あらためて二人だけのものではないのだと、そう思う。

未熟者だけれど、これからもよろしくと、みなさんにご挨拶できるのは、

こんなときだけだし……





「知花、手はこれでいいのか」

「うん……少し前に教えてもらったでしょう」

「あぁ、うん」


元々まじめな父だけれど、今日は特別。

こんなふうに父と並ぶことなど、最初で最後。


「お父さん、足元、気をつけてよ」

「わかっている。お前はしっかり前を見ていろ」


全ての準備が整い、私はこの扉が開くのを、呼吸を整えて待っている。

『バージンロード』。

父の手の上に手を乗せ、一番前で待っている人のところへ行く。

パイプオルガンの音が鳴り響き、チャペルの扉が開いた。

眩しい光りが私に向かってくる。その光りに慣れたとき……



……紘生の姿が見えた。



やだ、ものすごく緊張している顔。紘生のあんな顔、初めてみるかもしれない。

いつも、どんな人と仕事をしたって、堂々としている人なのに。

そう、初めて『DOデザイン』で会った日、デザインの才能をさらっと見せられて、

私は強烈に嫉妬した。それと同時に、自分が何も出来ないということに、

悔しさばかりだった。

誰が悪いわけでもない、自分が飛び立たないといけないと、教えてくれたのも彼だった。

苦しくても逃げなければ、得るものが必ずあると、意見をぶつけあって、

何度も何度も書き直した。

時々は、あまりにもハッキリ言われてしまうことに、腹を立てることもあったけれど、

それでも、最後は必ず納得できて……

この人と仕事がしたい、もっと教えて欲しい。



いや……この人と生きて行きたいと、自然にそう思えた。



『必ず応えるから』

そう言ってくれたことで、私は縮こまっていた自分の羽を、精一杯広げ、

羽ばたくことが出来た。

紘生は、とても強くて、とても優しい人だけれど、本当はたくさんの傷を抱えて

生きてきたことを知り、私なりに寄り添うことも出来るようになった。

支えてもらっている分、支えてあげられるという小さな自信も、生まれてきた。

これからも、互いに1歩ずつ、歩んでいけたら……


「お願いします」

「……はい」


私の手は、父から紘生の手の上に。

ここからは二人で……一歩ずつ進む。

長い長い、二人の日々に向かって。





「はい。『DOデザイン』です。長峰ですね、お待ちください」


結婚式から、あっという間に半年が経った。

羽田太一と工藤美貴の離婚騒動で止まっていた菜々ちゃんの家具も、

全てデザインは終了し、出来上がりを待っている。

『NORITA』の注文は今年、道場さんのデザインが採用された。

電話を取った優葉ちゃんが、私に合図する。


「はい……長峰です」


目の前に座った紘生が、どうだろうかという目で、こっちを見ている。


「はい、ありがとうございました。ぜひ、よろしくお願いします」


私は紘生に左手で小さな丸を出す。『OK』だということがわかり、

紘生は両手を握り締めた。


「決まったか」

「はい。『DOデザイン』に決定したと、今、連絡を受けました」

「よし、よくやった」


私と紘生は、クライアントのところへすぐに挨拶へ行くつもりで立ち上がる。


「社長には俺から連絡をしておくから。相手の気持ちが変わらないうちに、行ってこい」

「はい」


大手建設会社の学生向け賃貸マンション。備え付けの家具があることが売りなのだが、

今回、それを全てうちが担当することになった。大きな家具は紘生が担当し、

小物に近いところは、全て私が担当した。


「あぁ、よかった。これもお義父さんのおかげかも」

「あはは……そうかもな」


紘生の贈った机と椅子に合うように、作り上げたお義父さんの書類棚や本棚。

細かいところにこだわりながら作った、その経験のおかげで、

今回デザインをスムーズに仕上げることが出来た。


「使いやすいって、メール来たの」

「ん? 知花にか」

「そうよ。この間、取引先の社長さんに、いいなって言われたって、喜んでいらした」

「……なんでも知花に言うんだな」

「やきもち、やかない、やかない」


二人でエレベーターを降り、駅に向かう。


「知花!」

「何?」

「慌てすぎだよ、転んだらどうするんだ」

「……転ばないわよ」

「わからない。ゆっくり行けって」


紘生はそういうと、私のお腹に触れる。


「朝から何度も言ってますけど、まだ、動きません」

「いいんだって……気持ちの問題」


そう、ほんの2週間前くらいに、私のお腹には小さな命が宿ったことがわかった。

長峰家も折原家も、とても喜んでくれたし、迫田のおじいちゃんは泣いていたっけ。


「ねぇ、コンペに勝利できたから、今日はお祝いだよ。何食べようか」

「なんでもいいよ、別に」

「もう……そういうのが一番困る」


私たちはあれこれ話しながら、駅の階段を下っていく。


「何にしようかな……」


結婚前、そういえば母が『知花が、架け橋になれるといいね』と言っていた。


「それなら、肉」

「それは献立じゃないでしょう」


少しずつだけれど、折原の家とも連絡が出来るようになったのは、

確かに、私というクッションがあるからかもしれない。


「あ、そうだ、野菜をたくさん入れたあのカレーでもいいけど……」

「それ、普通の食事でしょう、お祝い感がない」

「なんだよ、お祝い感って」


そう『架け橋』。これからは、その架け橋がもう一人増える。


「あ、紘生、来た電車」

「だから走るなって」


新しい『架け橋』は、きっと、たくさんの笑顔を連れて来てくれるはず。

私たちの『Dressing』は、そこからまた、新しい味を生み出すのかもしれない。

何度も、いつまでも……




【Dressing 終】




《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『結婚式』の花嫁衣装。ウエディングドレスは9割、白無垢が1割。
両方チョイスという人も多いそうです。
ちなみにお色直しの平均は1.3回。



明日はあとがき……
コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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Comment

コロン

毎日、楽しみにしていました。
二人が協力して、いや喧嘩して問題にぶつかっていくのが、
おもしろかったです。
一年欠かさず読みましたよ。
また新しいお話、お待ちしてます。
いつもコメント残さずにすみません。
今日も、1番書き込み緊張しましたが、ゆうきです。
  • URL
  • 2016/03/27 15:36

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • 2016/03/27 22:44

ももんた

コロンさん、こんばんは

>二人が協力して、いや喧嘩して問題にぶつかっていくのが、
 おもしろかったです。
 一年欠かさず読みましたよ。

この読みましたの言葉で、とっても、とっても、救われます。
自分勝手に更新しているだけなので、感想をくださいと言うこと自体、
ずうずうしいことだとは思うのですが、つい……

書き込み、緊張しますよね、本当にありがとうございました。
また、お気楽にお付き合いください
  • URL
  • 2016/03/29 23:00

ももんた

ナイショコメントさん、こんばんは

>ハッピーエンドだからよかったと思えばいいのに、
 やはりさみしいなが先に出ます。
 特に、紘生がお気に入りでしたので。

そうですか。嬉しいな。
最終的には、明るく終わりたいなといつも思っています。
紘生のキャラも、気に入っていただけてよかったです。

これからも、お気楽にお付き合いくださいね。
コメント、本当にありがとうございました。
  • URL
  • 2016/03/29 23:03

ももんた

拍手コメントさん、こんばんは

>私の若い頃に似ている彼女にやきもきしたけど---------、
 本当についつい感情をいれすぎている自分にびっくり。

そうだったのですか。思いを口に出すって、簡単なようで難しいですよね、
でも、自分に合う相手だったら、自然にそれが出来る気がします。
人って、やはり相性があると思うし。
楽しみにしていただけるようになって、嬉しいです。

最後までお付き合いありがとうございました。
これからも、お気楽にお付き合いください。
  • URL
  • 2016/03/29 23:16

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