1 Target 【ターゲット】 【1-2】

【1-2】


「宇野」

「はい」


結局、僕は岩佐教授の押しに負け、大学院に進むという選択肢を取った。

選ばれたものだけが、研究を重ねる大学院での生活は、確かに有意義なもので、

夏になる頃には、プライベートも充実し、隣には笑ってくれる彼女も出来た。

このまま、色々なものを積み上げていけるだろうと思っていた、その年の秋、

運命は急激にカーブを描く。



僕の全てを支えてくれていた岩佐教授が、

突然の病に倒れ、ほとんど入院生活を送ることなくこの世を去ってしまった。



それはあまりにも突然で、またどうしようもないくらい呆気ないものだった。

明るかった研究室や教授室に、一瞬で冷たい風が吹きぬける。

人が一人いなくなったというよりも、僕らを照らしていた太陽が、

姿を消してしまったと言えるくらいで、どこか東で、どこに向かえば暖かい南なのか、

道しるべが全く見えなくなってしまった。


凍りつきそうなくらい、冷たい風の吹く中に、さらなる嵐が姿を見せ始めた。


岩佐教授が責任者として担当していた研究の引継ぎは、

彼の下にいた准教授たちではなく、いったん、全てが柿沼教授に引き渡されると、

『理学部』で発表される。


「どういうことだ、あの柿沼が全てのトップになるなんて……」

「もう、終わりだよ、これも」


先輩や同僚の嘆きは、単なる勝手な思い込みではなかった。

順風満帆だった僕の生活も、この嵐の中に入ってしまう。

今まで出来たことが全て出来なくなり、普通に使えていた教室に入ることすら、

特別な手続きを取らないとならなくなる。

それまで、色々と支えてくれていた他の講師や准教授たちも、

柿沼の顔色ばかりをうかがうようになり、研究グループに姿を見せなくなった。

僕は、いつのまにか、一人になっていた。


「柿沼教授」

「どうした」

「申し訳ありませんが、今の割り振りでは、研究時間が足りません」

「足りない? そんなことはないだろう」


柿沼は、メガネを外すと、自分の息を吹きかけ、丁寧に曇りを取っていく。


「明らかにうちのグループだけ……」

「宇野」

「はい」

「そういって、被害者意識を持つのは辞めておけ」

「被害者意識?」


柿沼教授は、外していた眼鏡をつけ、好んで吸う葉巻を引き出しから取り出すと、

少し深めにソファーへ腰掛けた。

体の沈む音が聞こえ、安定という最大の武器に守られた男の怪しい笑みが届く。


「そうだ、被害者意識だ。それでなくても、
大学内では私が亡くなった岩佐の愛弟子だった君に対し、
意地の悪いことをしているのではないかと、あれこれ噂になっている。
そんなことは何もないだろう、違うか?」


自信満々な意見。問いかける仕草を見せても、反論など聞く気はまるでない。


「君のグループのメンバーが、数名去ったそうだな」

「……はい」


いままで一緒に研究を続けてきた学生が数名、他にやることが出来たといい、

研究グループを去った。


「フォローしていた三本松も、今はあまり顔を出していない」

「はい」


准教授の三本松。

岩佐教授が生きていた頃には、さんざん世話になったのに、

近頃は、僕を見ると避けるようになった。


「それは私のせいだろうか。いや、違うな。お前が続けようとしている研究に、
成果がないと思われた。続けていても意味がないと思われた。
それか、お前の身勝手さについていかれないと、そっぽを向かれた。
そういうことだろ?」


『はい』と返事をするのは癪に障るし、だからといって、違うと言い返したところで、

それから先に話しが進まない。誰がそばに来ようが去ろうが、この際どうでもいい。

僕は研究を続けたい。大学院が終わるまでに、なんとしても形にしたい。

そう叫びたくなる気持ちをぐっとこらえ、両手を握りしめる。

今ここでケンカをすることが得策ではないことくらい、誰だってわかることだから。


「なぁ、宇野。お前だってわかっているだろう。国からの予算は限られている。
誰だって、自分の研究はかわいい。しかし、これはと思うものを見極め、
勝負をかけていくのは、私の役目だ」

「はい」

「周りの反応。それが達成されたときのインパクト。
そこまで考えて、割り振っているのだから、簡単に変えろなんて、言うものじゃない」


柿沼教授は、その後もあれこれ話をはぐらかせ、

結局、僕の研究に大きな予算がまわることはなく、さらに時を重ねた。




【1-3】

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