1 Target 【ターゲット】 【1-6】

【1-6】


沈めていた思いが、ここがチャンスだとなんとか這い上がろうとしていて、

それを少し待てと、自ら必死に止めている。

諦めて人生をおくっているはずなのに……


「あいつ、『女』がいる」

「女?」

「あぁ……柿沼にとっては、キラキラと光るダイヤや、札束よりも重い女だ」


尚吾が持ってきたのは、ライバルのいない状態で、一人勝ちをしている柿沼に対し、

少なからず嫌な思いを持つ先輩からのものだった。

もっと込み入った話しかと思えば、男女の話しだとわかり、少し力が抜ける。


「なんだよ愛人か……そんなことはありえるだろう。
お前が言うように、地位も金もある男だぞ。
たとえ、スタイルは中年の親父でも、肩書きってものが好きな女は、どこにもいる」

「そうそう、確かにな。でも、この話はただ『愛人』と決め付けられない、
まだ不安定な状態なんだよ」

「不安定?」

「そう、その女の存在は、俗にいう『愛人』というイメージではない」


尚吾は、それには柿沼の過去が深くかかわってくるのだと、

そう言葉を足していく。尚吾は楽しそうに語っているが、

興味を持った情報の芯がうまく伝わってこないのは、どうにもこうにもイラつくものだ。


「柿沼には、大学時代から長い間思い続けた女性がいた。
しかし、その人はごく普通の家の娘だったため、出世というあいつの欲には、
どうしても絡みようのない存在だった。まぁ、その当時じゃな、
『愛人』としてそばにいろとも言えなかっただろうし。
柿沼は、欲を捨てることが出来ず、結婚相手として、
そう……『秋岡総合病院』を経営する父を持つ、今の妻を選んだ」

「ふーん……」

「その女性は、そこからどういう人生を歩んだのかは知らないが、
とにかく娘を産んだ」


その女性は、娘を産み育てていたが、病気ですでに他界したのだと言う。


「だと、それは柿沼の娘なのか」

「まぁ、待て。柿沼は、数年前、その女性に娘がいたことを知り援助を申し出た。
愛した女性の面影を持つ娘を、自分の『愛人』にするべく、都内のマンションに住まわせ、
1ヶ月に何度か、通っている……」


その女性の母親との日々を忘れられなかった柿沼は、

娘を自分のものにすることで、満足感を得ているのだろうと、尚吾は分析を終えた。



『愛した女の身代わり』



昔、学生時代、古典文学で習った話、そう『源氏物語』。

父親の相手に思い焦がれ、似ている女性をそばに置き続けたという、有名な話。

もちろん、柿沼はそんな色男ではないけれど。

尚吾は、興奮して話したからだろうか、ビールを飲み干し、さらに1本追加した。


「なぁ、あいつ、柿沼いくつだと思う。もう普通の企業なら定年だぞ。
それなのに男だ女だって、まぁ、色々な『欲』に対するパワフルさは、
若い俺たちも見習わないとならないくらいだね」


自分が60代になった姿など、まだ想像も出来ない。

男はいくつになっても、女を求めるものなのだろうか。


「それで終わりか」

「ん?」

「ものすごいスキャンダルだと思って、真剣に耳を傾けたのに、
ただのスケベな親父の話じゃないか。
あいつを今の地位から落とすくらいの、勢いがある話しかと思っていたのに……」




そう、あいつを引きずり落とせるのなら……

僕の残りの人生など……




たった数分間の中で、僕の頭はそんなことを考えた。

だからこそ、緊張し、話に集中したのに。


「いやいやいや……ごめん。そこまで期待した? 
だってさ、そんな爆弾があったら、俺だってとっくにマスコミにリークしてるよ。
まぁ、酒のつまみ程度にはなるかと思って、披露したんだって」


尚吾は、ただのサラリーマンが、頂点を極めている教授の弱みなど、

そう簡単につかめるものじゃないと、またグラスに口をつける。


「ただな……これが普通の『欲』の塊の話しだと、割り切れないところもあるんだ」

「ほぉ……。お前、反省した態度を見せておいて、まだ続けるのか」

「まぁ、聞けって。先輩も、その先を色々と知っているわけではないけれど、
フリーライターとか、新聞記者とか、数人が、実は今も柿沼を狙っている。
それというのも、その『愛人』ではないかという女の存在を、
柿沼は世間から隠しているからさ」

「隠している?」

「あぁ……だから、もしかしたらその女は、柿沼の隠し子じゃないのかとか、
いや、やはり愛人だけれど、それだけではなく、
柿沼の何か弱みを握っているのではないかとか、色々と憶測だけ飛んでいてね……」



柿沼のウィークポイント。



「岩佐教授と違って、あいつは業界の『闇』を知り、くぐりぬけながら出世した。
ということは、叩くと色々とボロが出ることもあるはずなんだ。
もしかしたらさ、そういう過去のあれこれを、知っている……とかさ」


柿沼の出世。

確かに、僕が知っている中では、あいつが自分で成し遂げたものなど存在しない。

散々回りの連中に畑を耕すように仕向け、交換条件というもので、

実りを奪っていく。


「柿沼の何かを握る女であることは、とにかく間違いない。
で、そんな曰くつきの女は、どんなやつなんだと思ってみたら、
とある進学塾で、働いていたよ」

「塾?」

「そう、今、この塾で事務をしている」


尚吾がバッグから出した長方形のパンフレットには、

『SOU進学教室』という文字が、書いてあった。




『相馬郁美(いくみ)』



現在28歳。短大を卒業し、2年ほど前に今の塾に就職した。

たしか、柿沼には息子が2人いたはず。

僕がまだ『東城大学』にいた頃、付属の高校の制服を来ていた姿を、

見かけたことがあった。

年齢的には、彼女の方が1、2歳上だろう。

だとすると、確かに『隠し子』として、後から出てきても不思議ではない。

パンフレットをめくりながら、

事務手続きの説明箇所に載っている女性の写真を見た。




【2-1】

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