2 Recognition 【認識】 【2-3】

【2-3】


僕は、柿沼に打ちのめされて、自分の人生を諦めた。

これから何が起ころうと、どういう世の中になろうと、知ったことではない。

世の中のために動くなんて事はせずに、ただ……自分のためだけに動く。





そう……決めた……





僕のこれからの人生など、大きく変わることはないだろう。

生活のために金を稼ぎ、欲望のために、こうして相手を探す。


何をどうしても、心が癒やされないのなら……

何をどうしても、過去の自分に戻れないのなら……


せめて、あの憎い男が、何を隠しているのか、大切にしているのか、

それを知ってみたい。



『柿沼栄三郎』



あいつがこの世で笑みを浮かべている限り、

僕の人生に『満足』など得られない。

それなら……





あの柿沼に関わる運命を背負った女。

あの柿沼が、宝物のように扱う女。





僕はその女の全てを……この目で見てみたい。





嬉しそうに、肌を赤らめる彩夏を強く抱きながら、

まだ会ったことのない女の姿を想像し続けた。





『SOU進学教室』


テレビでもCMが流れるので、多少だけれどイメージはあった。

郊外に教室を構え、着実に実績を伸ばしてきている。

大勢を前に講義をするのではなく、

多くても3人一組で相手をする、ほぼ個人レッスンに近い塾の形だった。

午前中は浪人生を受け入れ、午後は小学生や中、高校生の相手をする。



『青原南教室』



『相馬郁美』が事務職として採用されているのは、この教室だった。

各教室には、教室長という人が存在し、それぞれが独自に経営するらしく、

そのため、講師を選びも各教室に任されていた。


「すみません」

「はい」

「今日、面接をお願いしている、宇野柾と申します」

「あ……はい、どうぞ」


受付の前にいた女性が立ち上がり、ひざにかけていたブランケットを椅子にかけると、

あらためて前に出てきてくれた。『相馬郁美』だろうかと、顔を見るが、

尚吾が見せてくれたパンフレットの顔ではなく、ふぅと息を吐く。



『藤岡』



この塾の事務は、相馬郁美だけではないのか。


「どうぞ、こちらに」

「はい」


1階の受付奥には、学校で言えば職員室のようなスペースがあった。

その横を通り過ぎ、階段を上がると、広い教室がある。

そこにパーテーションで仕切られたテーブルが、いくつもおいてあった。

全てで生徒が30名くらい入るだろうか。

スリッパを借り、ゆっくりと教室の横を通る。


「あ……相馬さん」





相馬……





「はい」

「教室長、奥にいるよね」

「うん……いらしたけど」


相馬郁美が、突然目の前に現れた。

髪は肩くらいまでのストレートで、

作業の邪魔にならないよう、軽くピンで留めると、机を拭いている。

特に、個性が強くも見えない、ごく普通の女性。

そう、この間思ったイメージ通り。



『地味で、特に目を引くところがない女』



「どうぞ、宇野さん」

「はい」


僕は軽く、頭を下げた。

顔を上げた瞬間、相馬郁美と初めて視線が合う。



なんだろう……

その目の中に、自分が映っている気がして、やけに緊張する。

視線がぶつかっていた時間が数秒……

相馬郁美は、視線をそらしたが、妙に慌てて見えた。




【2-4】

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