3 Miserable 【惨め】 【3-2】

【3-2】


パソコンというのは、事務員の二人が交互に使っているノートパソコン。


「動きがおかしいというのは、反応が悪いと言うことですか」

「はい」


僕は相馬さんの横で、マウスに手を乗せた。

軽く動かしてみるが、確かに動きが重いし、反応が鈍い。


「これはいつ頃から、こんなふうに?」

「昨日は、特に気にならなかったので、今朝からだと」

「そうですか……」


情報処理の頭ではないけれど、仕事でも研究でもパソコンは毎日そばにあった。

こういった時には、だいたいどういうことが起きているのか、

予想しながら、色々と試してみる。

ハイテクなものだって、所詮は人間が作ったものなのだから。


「あ……はいはい」

「何かありましたか」

「はい。これだと思いますよ」


パソコンは、表示している情報以外にも、過去のデータを全て記憶している。

動かしている人間が、どういうものに興味を持ち、調べたのかというデータを分析し、

次に調べるとき、時間がかからないようにするため、自己処理をするのだ。

しかし、頭の中には限界があるため、要領が増えてしまうと、

それを削除できず、疲れた反応をしてしまう。

僕はそうわかりやすく相馬さんに語り、掃除をしますと宣言した。


「掃除ですか?」

「はい。掃除といっても、命令を出すだけです。
もう覚えていた情報を消していいよと指示を出せば、こいつは気分が楽になるでしょう。
そうだな……新しい恋が始まれば、過去の悩みが消えていくように……」


相馬さんの顔は、何を言っているのかというように思えた。

僕は、それはたとえがおかしいですね、と、笑ってみせる。


「クスクス……」


遠慮がちな笑いだけれど、楽しそうに頷きながら、なんとなくわかりますと、

相馬さんは反応してくれた。


「それならよかったです」


その間にもパソコンは処理を進め、ふらついていた頭を、

しっかりとリフレッシュさせた。


「あ……はい、全然反応が違います」

「そうですか、それならよかった」

「ありがとうございました」

「いえ、お役に立ててよかったです」


僕は相馬さんの隣から、テーブルの方へ戻り椅子に座る。

前回もらっていたテキストをバッグから取り出した。

今日から面倒を見る学生は2人。

一人は小学5年生。そしてもう一人は高校1年生。


「女子か……」


相馬さんは束ねていた書類を横に置きながら、間違いのないように入力を続ける。


「宇野先生」

「はい」

「こんなに簡単に直してしまうなんて、すごいですね。
『東城大学』では、情報処理の方を勉強されていたのですか?」

「は?」


相馬さんは、僕がパソコンを適当に直せたことに感動し、

専攻はそこだったのかと尋ねて来た。

彼女は本当に機械を知らないのだろう。

今の出来事など、パソコンの知識から言えば、初歩中の初歩。

よちよち歩きの赤ん坊くらいのことなのに。


「いえ、僕は情報処理系ではありません。僕は……」





『東城大学 理学部』





その話題をしようとして、言葉を止めた。

相馬さんは、どういう意図で『専攻』を聞いてきたのだろう。

情報処理だと本当に思っているのなら、柿沼から僕の情報は流れていないだろうが、

ここから理学部の話を展開させ、何かを言わせるつもりだろうか。



まだ、彼女との距離は全く近付いていない。

だから、普段どおりの表情に見えても、駆け引きなのか、

そうではないのかが、よくわからない。

自分から個人情報を明らかにしてしまうと、

そう、思わぬところからボロが出るかもしれない。


「どう……されました?」

「あ……いえ、情報処理ではないです」

「違うのですか」

「はい」


ここはあえて別学部を出すべきだろうか。

いや、妙に隠すようなことをすれば、逆に怪しまれる。

相馬郁美は、どういう形であっても、柿沼と付き合いのある女なのだから。

『何かがある』と思われるのは、避けた方がいい。


「相馬さんは『東城大学』をよくご存知なんですね」


こちらから質問する形に変えてみた。

相馬さんは、僕の問いかけに、どういう意味なのかと表情を変える。


「情報処理の専攻があることはありますが、あまり有名ではないと思うので」

「あぁ……」


いくつも学部がある中で、『東城大学』の顔とも言える学部は、

やはり理学部と、医学部。

あえてそこを避けたのか、それとも……


「一応、進学塾の受け付け事務ですので……」

「あ……」


そうだった。ここは塾だった。

相馬郁美は、当たり前のことを言っているのに、どこか得意げに見える。

質問をされたことで、多少慌てたからだろうか、

自分でもよくわからない返答をしてしまった。




【3-3】

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