3 Miserable 【惨め】 【3-4】

【3-4】


もう一人の事務を担当する『藤岡友香(ともか)』さんが、姿を見せる。

朝から来ている方は、夕方5時まで。

遅れてくる方は、昼過ぎから夜10時まで。

彼女と相馬さんは、互いに引継ぎをする仕事形態になっていた。


僕の担当する『秋野俊太』は小学校5年生。

目指す中学は、『海南』。ここは有名進学校。

『東城大学』の同級生にも、何名もここを出た先輩や友人がいた。

そうなると、おそらく勉強する態度も真面目だろう。

しっかりと教えていけば、羽目を外すこともなさそうだ。


「俊太の家は、両親揃って有名私立の出身です。
だから小学校3年生からずっと塾に通っています」

「成績的には、どうですか」

「合格の可能性は高いと思います。しかし、どうも理数系、特に理科が……
で、宇野先生に頼もうかと」

「はい」

「教えると言うことは初めてでしょうから、私の方でフォローはします。
よろしいですか」

「はい」


まだ、あどけない顔写真を見た後、僕はもう一人の書類を前に出した。

塾講師として、成り立つのかどうか、僕の素質をはかるための学生は、この二人。


もう一人『山東アレン』は、高校1年の女の子。

父親がイタリア人で、母親が日本人、

今、モデルやタレントでも人気の出るハーフになる。

高校は、正直あまり勉強の出来るところではない。

今までの活動記録を見ても、宿題忘れや遅刻、欠席もあり、

親が呼び出されたという過去も存在した。


「教室長」

「はい」

「この山東アレンは、どういう子ですか」

「あぁ……うん。アレンはね、勉強が出来ないわけではないのだけれど、
家庭が色々複雑でね」


『山東アレン』の家は、喫茶店をこの近くで営んでいる。

ほとんど母との二人暮しらしい。


「彼女は本来、産休で休んでいる庄治先生が受け持つ子なんですよ。
夏休みまで面倒見てくれたら、それでいいから」

「夏休み……ですか」

「申し訳ないな、どうしてもこの時間でないと来られないと言われてしまって。
僕も空きがないものだから」

「いえ、それはいいんです」


別に、他の先生方より実績を上げようとか、いい教師になろうなんていう、

目標はなにもない。この場所になじみ、計画を着実に事項出来る時間と、

スペースがあれば、それで十分だ。



僕が、ここにいる目的……



「はい」

「あ、ありがとう相馬さん。よく買えましたね」

「うん、今朝は早く起きることが出来たし、いい機会だなと思ったから、
だからちょっと並んでみようと……」

「そうですよね、すぐには買えないですよね。どれくらいかかりました?」

「……1時間半?」


藤岡さんは、相馬さんと以前話した手作りの『豆大福』の店で、

1時間半も並んでくれたことに、感謝をしているようだった。

『豆大福』に1時間半、そんな時間の使い方、僕には到底考えられない。


「塾に来る前に1時間半? って……やだもう、相馬さん、いい人過ぎるよ」

「そんなことないって。藤岡さんが食べたいって言っていたでしょ。
美味しそうな話しを聞いていたら、食いしん坊の私も食べたくなっただけだって」

「でも……」

「先生方の数があるから、休憩時間に出しましょう」

「はい……」


『豆大福』

1時間半も並び、しかも講師の分まで買って来たのか……


「相馬さん」

「何?」

「あまり人がいいと、騙されますからね……」

「騙される? 私が?」

「そうですよ、この世の中、いい人ばかりじゃないんですから」


相馬郁美は、藤岡さんの言葉に、首を振りながら笑った。

やんちゃな学生をいい子達だと言い、人のために時間を使えるあなたの表の顔。

そして、あの柿沼を受け入れ、切り札をちらつかせながら、認めている裏の顔。



あなたは……あいつの何を知っている。



「騙すには、騙すだけの意味がないと」

「意味?」

「私なんて騙しても、誰も得しないでしょ」



いえ……あなたには、とてつもない魅力がある。

そして、あなたには、それだけの価値がある。





あの柿沼が、とにかく『愛情』を注ぐ相手だと思うと、

僕は、これから、どんな演技でもし、どんな人間にでもなれる気がする。





相馬郁美は、まとめた個人データを入力し終えたのか、軽く肩を動かした。


「楽しみね、『豆大福』」


目の前にいるターゲットの顔は、数秒見ているだけでも、

胸やけがしそうなくらい、幸せそうに見えた。




【3-5】

コメント、拍手、ランクポチなど、
みなさんの参加をお待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/2930-e485dfa6

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
263位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
4位
アクセスランキングを見る>>