4 Clue 【糸口】 【4-2】

【4-2】


彩夏は横に寝転がりながら、二人の上にかけてあるブランケットを奪っていく。


「おい……」

「まだお酒を飲むだけならいいの。私、嫌いじゃないし。でも……」

「でも?」


僕は奪われたブランケットを、こちらに引き戻す。

彩夏は体勢を立て直し、僕の横に座った。


「今度の週末。ご贔屓にしている会社の人たちと、『バーベキュー』するって」

「『バーベキュー』」

「そう。下ごしらえから何から、女性がするようにって、
それおかしいでしょ。下ごしらえなんて、誰でもいいじゃない。
女だからってすぐにこうなるの、もう、考えられない」


彩夏は、台所には滅多に立つことなどないと愚痴をこぼし始めた。

とりあえず鍋もフライパンもあるけれど、ほとんど使わないらしい。


「煮物を作るわけではないし、肉を切ったり、野菜を切ったりするくらいだろ、
オーバーだな。僕だってこなせる任務だけど、女性がした方が……そう、ほら、
イメージだよ、イメージ」

「人には得意と不得意があるの」


彩夏は僕の吸っていたタバコを取り上げると、そのまま吸い込んだ。

以外にメンソールが強いと、少し咳き込みながら、すぐに戻してくる。


「あぁ、もう、本当に嫌い。私自分で女子力弱いこともわかってるのよ。
だからどうでもいいと思うけど……負けず嫌いなところもあるから、
他の女子社員たちに、出来ないのねと思われるのも嫌なんだもの」


愚痴なのか、なんなのかわからない叫びを無視したまま、

戻されたタバコを吸い続けていると、彩夏は僕の態度が気に入らなかったのだろう、

タバコを取り上げ、それを灰皿に押し当てた。

赤く光っていた先端は、強く押されたことで灰だけになる。


「まだ……吸えた」

「うるさい」


彩夏は、両手で人の頬を挟み、舌が絡みつくような濃厚なキスをし始める。

怒りが先なのか、欲求が先なのか……


「……どう? 私って他の女より、キスうまくない?」


いたずらっぽい目を向け、彩夏は僕にそう問いかけた。

ここは『うまいよ』言うべきなのだろうか。あまりにもばかばかしい。


「いや……昨日の女の方がうまかった」


僕はそう言いながら、そばにあったティッシュをつかみ、口を軽く拭いてみせる。


「ちょっと、何よそれ。どこの女?」

「言いたくない」

「仕事先の人? やだ、もしかしたら学生?」


軽く流して欲しい会話なのに、こう突っかかってくると、面倒になる。


「冗談だ。あのなぁ、くだらないことに巻き込まないでくれ。
他の女に笑われたくなければ、家に戻って包丁の練習でもすればいいし、
自分は自分だと思うのなら、堂々と出来ない女を見せればいいだろう」

「何よ、もう」


彩夏はそういうと、またブランケットをつかみ、今度は僕の足元の方へ移動する。

彼女の髪の毛なのか、舌先なのか、妙な刺激が、身体に走り始める。

濃厚なキスの後のその動きに、何やらたくらんでいそうな気がして、

僕は右足で彩夏をはらってやった。


「痛い、何するのよ、もう!」

「それはこっちのセリフだ」


僕はホテルの壁につけられた時計で時刻を確認する。

そろそろ立ち上がり、シャワーでも浴びて出て行こうか……そう考える。


「ねぇ……本当に冗談?」

「は?」

「今、言ったでしょ。昨日の女の方がって……」


彩夏はそういうと、急に自信なさげな表情を見せた。

僕は、冗談だと真顔でもう一度繰り返す。


「柾はいつも同じ」

「同じ? 何が?」

「あなたはいつも自分は大丈夫だと思っている」

「大丈夫? どういう意味だよ」

「柾は、自分の道を踏み外さないの」


彩夏は、僕の膝の上に座り、両手を首に回してきた。

今まで見えていた時計が、彩夏の影に隠れてしまう。



『踏み外さない』



「そんなこと、思っていないよ」

「ウソ……」


思っているわけがない。だからこそ、組織からも外れてしまったのだから。


「はぁ……」


吐き出されたため息が、まっすぐに僕へ向かう。

これだけ不安そうな彩夏も、珍しい。


「どうした。そんなに女子力が気になるのか」

「柾……あなたみたいな考えをする人は、
私みたいに、何かが欠落したような女がちょうどいいのよ」

「なんだそれ」


彩夏は僕とおでこを合わせると、もう一度ため息を押し出した。

身体がもたれかかるようになり、彼女のふくらみの先端が、僕の肌に触れる。


「どうした……何か他にもあるのか」

「ない」

「あ……そう」


ホルモンバランスでも悪いのだろうか。

右を示せば左がいいといい、左に向けば、もう辞めたと言われてしまう。

こうなったら、何も言わずに、ただ受け入れているのが一番いい気がする。


「自分以外の人間を、真剣に愛したこともないくせに」

「……彩夏」

「女はそれほど鈍感ではないですからね。なんでも出来る女だったら、
そんな生意気で、高飛車な男、選んでくれないの」


『生意気で高飛車な男』

彩夏には、僕がそう映っているということだろうか。


「どういう意見だよ、それ」


彩夏は、僕の顔を悔しそうな目で見た後、鎖骨にキスをした。

くすぐったいような感覚が、数秒前まで立ち上がることを考えていた僕の気持ちに、

少しだけ変化をもたらせていく。


「私みたいに、色々と出来ないことがあるから、柾のプライドが保たれるのよ」


彼女のキスが首に耳に、迫ってくる。


「こんなダメなやつもいるのかって、優位に立てるの」

「彩夏……他に何かあったのか?」

「お前はダメだって、言わせてあげるから。だから……」


僕は切なそうな彩夏の声を聞きながら、左手を使い、鼻を軽くはじいてやる。


「痛い……」

「人の上に乗ったまま言わせておけば、生意気な女だ」

「ほら、優位に立てるでしょ」


僕達は、引き寄せあうように唇を重ねながら、時が満ちていくのを待ち、

そして、その先の快感を得るために、穏やかだった波をもう一度動かし始めた。




【4-3】

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