4 Clue 【糸口】 【4-5】

【4-5】


「ありがとう、相馬さん」

「はい。でも、女の子なのだから、ケンカなんかしたらダメよ」

「向こうから言い出したの、私がしかけたわけではありません」


アレンは、相馬さんにカーディガンを渡すと、自分の制服を着た。

事務所に残る先生方に挨拶をすると、普段のように帰っていく。


「宇野先生、すみませんでした」

「はい?」

「私の勝手な判断で、アレンの授業、結局伸ばしてもらったので」

「あぁ……」


そうだった。本来の時間からすると、結局1時間近く遅れてしまっている。

明日は、『ストレイジ』で会議がある予定だ。

今夜のうちに、資料だけは全て読み込んでおかないと。


「もう、相馬さんは帰りますか」

「あ……はい。そのつもりですが」

「少し、お聞きしたいことがあるのですが」


アレンのことをきっかけに、彼女と話すチャンスが出来るとそう思った。

仕事の話題なのだから、塾内で話せばいいのだけれど、

教室長を絡めてしまうと、また、別の問題が出てきそうな気がした。


「……もし、よかったら、これから一緒に食事でもどうですか」


驚いた顔の相馬さんだったが、そのままコクンと頭が下がる。

僕はそれならと目で合図を送り、帰り支度を急ぐことにした。





ごく普通の、会話が楽しめそうなレストラン。

相馬さんに聞くと、途中まで同じ電車に乗ることがわかったため、

その乗り換え駅の中にあるお店を選んだ。

食事の時間からは少し外れていたので、すぐに席へ案内される。


「すみません、強引にお誘いしてしまって」

「いえ……私の方こそ、落ち着いて考えてみたら、
塾の中でお話を聞けばよかったのかなと」

「いえいえ」



それでは、意味がない。

事務員と講師、この関係から少しでも抜け出せるように、こうして改まった場を持った。



ウエイターが目の前に現れたので、それぞれが好きなものを注文する。

食事に合うワインでも頼もうかと、別メニューを手に取った。


「ワインでいいですか?」

「あ……すみません、私、アルコールダメなんです」


相馬さんはそういうと、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。


「すみません、子供みたいで」

「いえ、そんなことないですよ。それなら僕もやめておきます」


アルコールの助けで、会話がリズムよく進めば、

少しでも気持ちが大きくなればと思ったが、一人で飲むのなら辞めておいたほうがいい。


「いえ、どうぞ。私、人が飲んでいるのを見ているのは、嫌いではないですから」


お酒を飲む席は、飲めなくても楽しいのだと、

相馬さんはメニューを僕に勧めてくる。


「いえいえ、まだ、相馬さんにみっともない姿を見せるわけにはいかないので」

「みっともない?」

「はい」


相馬さんは、宇野先生は乱れそうもないですよと、笑顔を見せた。

結局、僕達は二人、食後にコーヒーを注文する。


「お話って、アレンのことですか」

「はい。授業で大学に行かないとか言っていました。で、家が大変だとも」

「そうですか」

「あの……彼女のお父さんは、イタリアの人ですよね」

「はい」

「何か複雑な家庭なのですか」


相馬さんは、話すべきなのかどうなのか、迷っているように思えた。

個人的な情報を、こういった場所で聞きだすことは、無理だったのだろうか。


「アレンの父親と母親は、正式な夫婦ではないそうです」


アレンの父親には、イタリアに本当の家族がいるが、

仕事で日本に来ている中で、アレンの母親と出会い恋をした。

アレンが生まれてから、しばらくは3人の生活があったそうだが、

小学校に上がる前くらいにイタリアに戻ると、そこから音信不通になったという。


「音信不通」

「はい」

「……で、今も」

「はい」


アレンが嘆いたのは、そういった理由からだった。

夫婦になれないことをわかっていて、自分を産んだ母親と、

責任を取ることなく、姿を消した父親。

『愛されていない』と思うのも、無理はない気がする。


「あの子、髪が少し天然パーマなんです。自然な形なのだから仕方がないのに、
でも、学校で事情を飲み込んでいない先生に、よく怒られたそうです。
『パーマをかけている』って。目の色も日本人とは違うのに、
言葉は日本語しか出来なくて」


純粋な日本人ではないといっても、日本でしか暮らしたことがないのだから、

それは当たり前だろう。


「今時ハーフって、どこか憧れのような存在だと思うんですけど、
アレンはそれがとても嫌なんです」


髪の毛が乱れていたのも、そういったところが関係するのだろうか。


「子供にとって、何があっても自分を愛してくれるのは、親だと思うのですが、
それがないというのは……辛いものですから」


相馬さんはそういうと、出されたお冷に軽く口をつけた。




【4-6】

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