4 Clue 【糸口】 【4-6】

【4-6】


なぜだろう、いつも彼女はどこか抑えたような表情を見せる人だけれど、

今日は特に、沈んでいるように見える。

二人の前に、それぞれ注文したものが運ばれてきたため、

互いにナイフとフォークを持ち、食べやすいように切り始める。


「私も、あまり父親を知らないので、
なんとなく彼女の気持ちが理解できたのかもしれません。
そんな話をしてあげたら、アレンが授業の前や後に、
声をかけてくれるようになりました」



『父親を知らない』



柿沼と相馬さんの母親。

どういういきさつがあり、今があるのか、それはまだ何もわからない。


「お父さんは、もう亡くなられたのですか」


早すぎるかもしれないが、チャンスだと思い聞いてしまった。

柿沼の隠し子なのか、それとも『愛人』なのか、ヒントになる気がして、

つい、口から言葉が出てしまった。

相馬さんは黙ったまま……


「すみません、個人的なことを急に聞いたりして。実は、僕は小学校の頃、
病気で父を亡くしました。ですので、もしかしたら相馬さんも、同じなのかと」


そう、興味本位だけではない。

父親がいないハンデのようなものは、僕自身が感じ続けてきた。


「でも、僕には数少ないですが、愛されていた記憶はあります。
抱いてもらっている写真も、家族で出かけている写真もありますし。
見ると、そういえばと思い出すようなことも……」


背中の大きかった人、そう、僕のイメージ。

こんなふうに自分のことを切り出せば、

私はこうなのだと、彼女も身の上を語りだすかもしれない。


「写真って、いいですよね」


人の記憶は、永遠ではない。だからこそ、写真として何かが残っていたら、

そこから呼び戻すことが出来る。



「私の父は……」



私……そう、相馬さんの父親は……



その時、ウエイトレスが手に持っていたお盆を落とし、

ガチャーンという金属の音が店内に弾きわたった。

相馬さんは驚いたのか、一瞬体を硬直させる。

『申し訳ございません』という謝罪の声が、遅れて追いかけてきた。


「あぁ……ビックリしました」

「驚きましたね」


店内に残っていた客たちも、それぞれが驚いたなどと言い始め、

ざわつきが大きくなる。それでもすぐにまた空気の流れが戻っていった。


「すみません、宇野先生は、アレンのことを聞くために食事を誘ってくださったのに。
私ったら、変な方向に話を動かしてしまって」

「あ……いえ」


余計なウエイトレスの行為に、相馬さんは思う以上に引いてしまった。

むしろ、聞きたいのはあなたのことなのですから、

どんどん語ってほしいのに、ここから引き戻すのは難しいだろう。

無理に相馬さん個人の話しにこだわれば、この後、警戒される可能性もある。


「えっと、大学の話でしたよね」

「あ……」

「アレン、宇野先生だからそう言ったのだと思います。
大学には行きたいはずですよ。だから、文句を言いながらも、塾に通っているし」

「僕だから……ですか」

「宇野先生に、励ましてもらいたいのですよ、きっと。
ちょっと弱気なところを見せたら、何言っているんだって、怒ってくれるかなと」


励まされたい……そうだろうか。


「今日だって、あれだけ遅れたのに塾へ来たでしょ。
頑張ってきたのは、宇野先生の授業だったからですよ」

「そうでしょうか」

「そうです。今までは何かがあれば、絶対に来なかったですし、
無理に呼び出して、結局、ふてくされて帰ったことも、何度もありましたから」


複雑な年齢の、複雑な家庭の女子高生。

話は完全に、アレンに戻ってしまった。


「そうだ、相馬さんのカーディガンは、いい匂いがするって、アレンが言ってましたよ」

「いい匂い? そうですか?」

「うーん……僕は嗅いでませんから、わからないですけど」


僕の切り返しに、相馬さんはそれもそうですねと、少し笑ってくれた。

そこからは二人の食事のペースが上がる。

もっと、色々な話ができるかと思っていたが、

そこまで心を許してもらえたわけではなく、初めての食事会は、

食後のコーヒーも、全てなくなった。


「出ましょうか」

「はい」


初めて出会った時の印象どおり、彼女は芯のある女性だ。

無防備に、あれこれ語ったりはしないので、

気持ちを許してもらえるまで、時間はかかるだろう。

しかし、一度信頼した相手を、自ら裏切るような人には思えない。

とことん相手を信じられるようになってから、心を開くのだとしたら、

柿沼のウィークポイントを聞きだすのは、難しいかもしれない。


「宇野先生」


彼女の財布に向けた手を、軽く押さえ、結構ですとお断りする。


「僕がお誘いしたのですから」

「いえ、でも、時間を延ばしてしまったのは私の責任ですから」


会計の時に互いに言い合うのもおかしなものなので、

相馬さんも小さく頭を下げると、すぐに従ってくれる。


「ごちそうさまでした」

「いえ、たいした金額じゃないですよ。アルコールが入らないので」

「でも……」

「また、色々と教えてください。僕は週に2回くらいしか塾にいませんので、
子供たちの様子も、全てわかっているわけではありませんから」

「はい」


そこからは改札を通り、互いの路線へ向かって歩く。

背のあまり高くない相馬さんは、すぐに人の波に消えてしまった。




【5-1】

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