5 Approach 【アプローチ】 【5-3】

【5-3】


『柿沼栄三郎』

嫌いな男だったとはいえ、『東城大学』内には、常にあいつの存在があった。



「俺も、そう思う点があるんだよね」

「そうなのか」

「あぁ。初めて塾に面接に行ったとき、彼女と不自然なくらい、目があった。
コンタクトが入っていないから、焦点が合わなくて、
じっと見てしまったと言っていたけれど、僕の名前を聞いて、
意識して視線を合わせていた気が……」


ほんの数秒だったが、偶然見たにしては、長かった。


「まずいんじゃないのか」

「まずい?」

「そうだよ。柿沼がお前のことをその人に話しているとしたら、
逆に……」

「逆になんだよ。僕には、柿沼に握られたら困るような秘密は、ひとつもない。
それこそ、俺の女に近付くなくらいのことを言ってくるのなら……って、
何しているんだよ、尚吾」

「この『笹かま』に、妙なものがついていないかと思ってさ。盗聴器とか……」


『笹かま』に盗聴器、ありえない。

パッケージの表と裏を交互に見ていたのは、そういうことか。


「こんなものにつけるわけがないだろう。かじったら終わりだ」

「いや、でも……」

「なぁ、尚吾」

「何だよ」

「これはあくまでも僕の考えだけれど、この1ヶ月、
そうまだ1ヶ月しか見ていないけれど、
僕は彼女が柿沼を男として愛しているようには、どうも見えてこないんだ」



女はわからない。



そう、過去にも清純そうに見えて、実際には二股をかけるような人もいた。

でも、そういった女に感じる、生臭さのような空気が、

相馬郁美からは、何一つ感じ取れない。


「生臭さねぇ……」

「あぁ……」


計算高い面とか、繕う部分の多さとか、見栄えや体裁を気にする女性の、

いやらしさという『生臭さ』。


「だとすると、お前は相馬郁美が、柿沼の隠し子だと……」

「うーん、確信はないんだ。でも、愛人ではないとなるとと言う、
あくまでも消去法だけどね」

「消去法かぁ」

「『愛人』として、何か弱みを握っているということも考えてみたけれど、
彼女に柿沼をゆすれるような、何かがあるようにも思えないんだ。
まぁ、人をゆするタイプにも見えてこないということだけれど」


同じ事務員が気に入っているからと、

塾に来る前に、『豆大福』を買うために1時間以上並んだ話し、

そして、学生のために親身になり、なんとか支えてあげようとする姿。


「だとすると、『隠し子』。そう考える方が、理解しやすい気がするんだ」


自分を認めてくれていなかった時間に対し、言いたいことはあるだろうけれど、

今の柿沼の状態を思えば、彼女も強く出られないのではないだろうか。



近くでもなく、遠くでもなく、距離をとっている間柄。



「なぁ、柾」

「何だよ」

「お前、そうやって彼女の分析をするのはいいけれど、堅いだの、
生臭くないだのと言って、ミイラ取りに行くつもりが、
ミイラになるつもりじゃないだろうな」

「は?」


ミイラ取りがミイラになるというのは、

僕自身が彼女に、飲み込まれるというころだろうか。


「相馬郁美って女を知ろうとして、アリ地獄のような中に、
お前自身が吸い込まれないでくれということだよ」


尚吾は、グラスに口をつけ、笑いながらそう言った。

相変わらず言いたいことを言う男だ。


「そんなことに、なるわけがないだろう」


そう、相馬郁美に対して、個人的な感情など何もない。

ただ、柿沼の何かが、彼女から探れないかと思っているだけだ。

親と子と、名乗れない時間の中で、あいつを少しでも憎んでいるのだとしたら、

僕が、心を許せる相手となれば、何かが引き出せるかもしれない。


「そうだよな、余計なことでした」


尚吾はそういうと、また『笹かま』をひとつ取り、口に入れた。


「うまい、弾力もあるし、これは一流品だぞ」

「わかった、わかった。今そう言ったばかりだろう」


僕は尚吾が持ってきたローストビーフを切り分け、皿に入れる。

この日のために用意しておいた『日本酒』を、棚の中から取り出し、

一緒にテーブルへ運んだ。




【5-4】

コメント、拍手、ランクポチなど、
みなさんの参加をお待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/2942-0b336797

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
263位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
4位
アクセスランキングを見る>>