5 Approach 【アプローチ】 【5-4】

【5-4】


それから数日間は『ストレイジ』の仕事が詰まっていたため、

僕は、データの数字を見ながら、次にやるべきことを考えた。

集中している間は、それを辛いと思うことはないのだけれど、

終わりが見えてくると、脳が体を解放したくなる。

今日はそれほど長引くことはないだろう。

僕は携帯を取り出し、彩夏のアドレスを呼び出してみる。



『今日はどう?』



昼休みにメールを入れてみたが、彩夏の返事は夕方になっても届かない。


「宇野」

「はい」


返信がないかと確認していると、澤野さんに声をかけられた。

僕は携帯をポケットにしまう。


「お前さ、今日、時間あるか」

「今日……ですか」

「あぁ……」


僕からコンタクトを取ると、彩夏からのOKが出る可能性は高い。

今日は先客があるのだと断わるべきで……


「会って欲しい人がいるんだよね」


澤野さんは、僕に会って欲しい人がいるのだと、そう言った。





今まで、二人で飲みに行くことは何度も会ったけれど、

こうして誰かが挟まることは滅多にない。


「急な話しだから無理にとは言えないけど、昔からの知り合いでさぁ」


澤野さんの知り合い。

僕は携帯をあらためて開く。

彩夏からの返信は、まだ届いていなかった。


「……いいですよ。澤野さんの頼みなら」

「大丈夫か?」

「はい」


僕は『キャンセルさせて』とメールを打ち込み、彩夏に送信した。





仕事を終え、僕達が店に到着すると、澤野さんが僕に会わせようとしていた人が、

すでにテーブルについていた。髪の毛はショートで、動きやすそうな格好と、

大きなバッグ。


「すみません、澤野君に無理を言ってしまって」

「いえ、そんな……」


出された名刺の職業に、すぐ納得がいった。



『中央新聞社 社会部』



「富田純(じゅん)です。始めまして」

「宇野柾です。澤野さんにはいつもお世話になっていて」

「おいおい、宇野。何を言っているんだ。
本当は世話になんてなっていないと、思っているだろう」


澤野さんは、僕のことをヒジでつつきながらそう言い返してきた。


「澤野さんこそ、何を言っているんですか、
人の挨拶に茶々を入れるなんて、子供みたいですよ」


僕と澤野さんのやり取りに、富田さんは笑みを見せ、

とにかく乾杯しましょうと、グラスを押し出してくる。

ここは共通の知り合いが代表ということで、澤野さんが乾杯の音頭を取った。

しばらくは、澤野さんと富田さんが、互いの近況を語り合い、

その中に出てくる話題に、僕が頷いていた。

富田さんが水割りの3杯目をつくり、澤野さんが氷を新しくして欲しいと頼む。


「さて、そろそろ……」

「そうね」


浮かれていたような空気が、その場に落ち着き始め、富田さんは顔つきを変えた。

僕も、少し崩れかけた姿勢を、元に戻す。


「今日、宇野さんにここへ来てもらったのは、
ぜひ、お聞きしたいことがあったからなんです」

「……はい」


富田さんは、大きな新聞社の社会部記者、この僕に何を聞くと言うのだろう。

澤野さんは、すでに内容を知っているのか、落ち着いたままだ。


「『城蔭大学』の、山田統(おさむ)教授をご存知ですか」

「『城蔭大学』……ですか」


『城蔭大学』は、まだ立ち上がって数年の大学だったはず。

ここのところ、大学関係者と仕事をした覚えはないけれど。


「あ……3年前にその大学に移られました。山田教授はそれまで、
『東城大学』にいらしたはずです」


『東城大学 山田』


「あぁ……」



『山田統』



そうか、そう言われて思い出した。

『山田』は柿沼のグループに所属していた取り巻きの一人だ。

当時はまだ准教授だったはず。

いつも柿沼の斜め後ろに立ち、相槌を打ちまくっていた男。

尚吾がつけていたあだ名は、『パラオ』。

パラサイトする男と、よく影で呼んではからかっていたっけ。

岩佐教授が亡くなってからは、廊下で挨拶をしても、

僕のことなど気付かない振りをしていたやつ。


「はい……知っていますが」

「そうですか。実は、山田教授から、柿沼教授のことを色々と聞きまして」

「柿沼教授のことですか」

「はい」


山田は、『東城大学』時代、柿沼教授が、学生の研究論文を勝手に差し替え、

自分の影として活用していたのだと話し、その中に、僕の担当していた研究もあるのだと、

名前を出したという。


「宇野さんの研究も、柿沼教授に横取りされたという事実は、
山田教授の言われるとおり、あるのでしょうか」


富田純さんという人が、もっと昔からの知り合いなら、話しは別だったかもしれない。

しかし、澤野さんの紹介とはいえ、信用していい相手なのかもわからないし、

話しの出所が、あの山田だ。

長い間、柿沼の右腕のように動いていた男が、急に裏切ったということだろうか。




【5-5】

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