6 Instinct 【本能】 【6-1】

6 Instinct 【本能】

【6-1】


「あ……」


『姉』と表現したのは、当たったのだろう。

それにしても、そこまで驚かれると、こちらが構えてしまう。

相馬さんは、僕から顔をそらし下を向く。



まただ。



プライベートを見ようとすると、突然出てくる聞かれたくない、

話したくないというオーラ。


「兄弟ですか。いやぁ、僕は一人っ子なんですよ。
だから親に兄弟を比べられたことはないな」


嫌な顔をしているのだから、突き詰めることはやめよう。

ここは、相馬さんの重荷を、払ってやる方が先だ。


「どういうことなのか、わかりましたから、もう謝らないでください。
おそらく、僕も俊太に同じことを言ったと思います。点数上がったから、
褒めてもらえるぞって」


いきなり山頂に登ることは難しい。それでも、このまま上がっていけば、

見えなかったてっぺんが見えてくると思わせることは大事。



「相馬さんは、優しいですね」



つい、そんなことを言ってしまった。

大学の頃から、高い場所を目指すものがある人間たちと、

付き合い続けてきたからだろうか、

人よりも前に出るコツは、いくつも聞き出してこられたし、

自分でも実行出来る方法はあるけれど、人のために悩み、苦しむ姿を見せられるのは、

久しぶりな気がする。


「いえ……優しいだなんて、違います」


彼女らしい遠慮のコメント。


「私は、自分が弱いから……」



弱い……



「どうしようとか、失敗したとか、そんなことばかり考えてしまうので。
ダメなところばかりたくさん持っているので、弱いことを言う子供たちと、
共通点がたくさん見えるのだと思います」



あの柿沼と相馬さんの接点は、どこにあるのだろう。



男と女として互いを認めているとは、やはりどうしても思えない。


「ダメなところばかりなんて、謙遜しすぎですよ。
相馬さんは子供たちをよく見てくれているので、本当に助かっています。
僕はたまにしか来ませんし、結構短気だから、この間のアレンのようなことがあると、
『もういい』って投げ出したくなるのに」


相馬さんが間に入らなければ、おそらくあの日、アレンに授業などしなかっただろう。

彼女が僕の授業を受けたがっているなどという発想も、おそらく出てこなかった。


「そうでしょうか。優しいのではなくて、空気が読めていないのだと思います。
講師でもないのに、宇野先生の邪魔をしてしまって」

「邪魔ではないですよ」


僕は、壁にかかった時計を見た後、授業の時間が近いのでと教室を出る。


「宇野先生」

「はい」

「俊太とアレンのこと、よろしくお願いします」


僕は、わかりましたと頷き、職員室へ向かう階段を降りた。





相馬さんが話していた通り、俊太はその日、少し沈んだ顔を見せた。

僕はテストの結果表を渡し、頭をポンポンと軽く叩く。


「よくやったな。ちょっとやる気になれば、ここまで点数が伸びるんだ。
まだ本番までは1年以上もある。知識を積み重ねていこう」


俊太は渡したテスト結果を軽く見ると、そのままグシャグシャにし、

ゴミ箱へ捨ててしまった。僕は黙ってそれを拾い、俊太に戻す。


「いらない」

「どうしていらないんだ。自分の成果だろ」

「別にいいよ……全然点数足りないし」


65点。普通の私立なら、十分な点数だ。

でも……


「褒めてもらえなかったか」


俊太の拗ねている理由。

大好きなお父さん、お母さんに認めてもらいたいがために、

兄たちと同じ場所を目指している。


「このレベルの問題なのにって……言われた」

「そっか」


どこの中学に受かるのか、それも確かに重要なのかもしれないが、

たとえ有名な大学を出て、優秀な頭を持ったと言われても、

そのために、人として足りないところがあってもいいとは、思わないのに。


『東城大学』で、細工ばかり身につけ、教授のトップに立った柿沼も、

それにイソギンチャクのようにくっつき、おこぼれを食べつくしていた山田も、

業界のトップに君臨する人たちは、俊太以上に、点数が低いやつばかりだ。


「辞めちゃえばいいじゃないか、俊太」

「エ……」

「一生懸命頑張ったのに、褒めてももらえないって、拗ねて嫌な思いをするのなら、
受験なんてやめちゃえ」

「先生」

「『海南』以外にだって、いい私立はたくさんあるぞ。
それに、先生は公立の学校を出たけれど、『東城大学』まで行けたしさ」


そこまで下を向いていた俊太が、明らかに困った顔をし始めた。




【6-2】

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