6 Instinct 【本能】 【6-2】

【6-2】


それはそうだろう。

勉強を教える立場の僕が、受験を急に辞めろだなんて。

柿沼や山田のことを考えたからだろうか、小学校5年生相手に何をしているんだか……


「ダメだよ、そんなこと」

「ダメ? どうして」

「僕は、『海南』に行きたいんだ。そうしたらきっと、褒めてもらえるし」


ここは塾。

俊太の人生そのものを、面倒見るわけではない。

その後抱える悩みや苦しみまで、考えてアドバイスをする必要などないのだ。



ただ、成果を出すこと。

それに集中すればいい。



「そうか……それなら拗ねていないで、勉強始めよう」

「うん」

「俊太。お父さんもお母さんも、お前の点数が上がって、
嬉しくないわけはないんだぞ。ただ、ここで褒めてしまうと、
もう平気だと、大丈夫だと、お前が甘えてしまうのが怖いんだ」

「怖い?」

「そう。先生が大学のときもそうだった」

「大学で? どうして」


研究の途中まで、思い通りに展開していると、

おそらくこのままデータは落ち着くだろうという、妙な安心感を持つことがある。

たった一日だから、見ていなくても平気だろうという甘えが出ると、

積み上げてきたものが一気になくなることも、過去にあった。


「安心っていうのが、一番危ない。崩さずに積み重ねることが、
受験でも、研究でも同じく大事なことなんだ」


途中経過を全く評価しないのでは、やる気が続かない。

でも、褒めてばかりいたら、気がゆるむばかり。


「今お前が言っていた通り、お父さんもお母さんも、
ゴールについたら、ものすごく褒めてくれる。あと1年半後」

「1年半かぁ……」


俊太は、それは長いなという表情で、ため息をついた。

大人になると、1年半などあっという間な気がするが、子供はそうもいかないらしい。

確かに、1年半、辛いことだけだと思うと、気持ちも重くなるだろう。


「そうだ、俊太、いいことを思いついた」

「何?」

「今、褒めてもらいたかったら、相馬さんのところに行けばいい」

「相馬さん?」

「あぁ、前に先生、パソコンの調子が悪いって言われて、
ちょっとだけ動かしてあげたら、ものすごいことをやってもらえたって、
大喜びしてくれたんだ」

「うん」

「先生が神様かもしれないってくらい、褒めてもらえたぞ」

「エーッ……なんだよそれ」


俊太は、楽しそうに笑い出す。


「褒められるって、恥ずかしいけれど、嬉しいだろ。
相馬さんはそういう気持ちにさせるのが上手だから、そうだな……」


俊太の背中越しに、学生や教師が、参考にするため手に取る受験本や問題集が見えた。

それぞれが思い思いの場所に置くため、並びが揃っていない。


「ほら、あの棚とか揃えてさ、相馬さんに片付けたよなんて言ったら、
鼻がこんなに高くなるくらい、褒めてもらえるから」

「……あはは」


俊太は、相馬さんならそうかもしれないと、顔をクシャクシャにして笑い出す。

そこからは問題集を広げ、また、前向きに勉強がスタートした。





俊太の授業が終了。

アレンが来るまで、何をするべきか……





俊太を見送ってから数分後、相馬さんがパタパタと履物の音をさせながら、

教室に入ってきた。

すぐに棚を確認し、また下へ降りていく。



俊太のやつ……

早速行動にうつしたな。



僕はそれから5分後くらいに、教室から職員室へ降りていく。

明るい顔になった相馬さんが、すぐに頭を下げてくれた。


「何か」

「俊太君、教室の本棚がゴチャゴチャしているから揃えたよって言ったんです。
相馬さんのお仕事、一つ少なくしたから、早く帰れるよって」



仕事を減らした? そんな台詞は教えていないけれど。

あいつ……さすがになかなか頭がいい。



「そうですか。はい、確かに俊太が片付けました」

「だから私、教室を確認した後、ありがとうってお礼を言いました」

「はい……あいつ、笑っていたでしょ」

「はい。とっても嬉しそうな顔をして、帰りました」


相馬さんも、少し前までの神妙な顔とは全く違っている。


「子供ですからね、何でも褒められたいんですよ、本当は」

「……はい」

「俊太のご両親は、『海南』合格以外、褒めることはないでしょう。
相馬さんが、あいつをたくさん褒めてやってください」

「……はい」


授業が一通り終わった職員室。

教室長は別の部屋にいるようで、藤岡さんが姿を見せたとなると、

おそらく、相馬さんはこれで仕事を終えるだろう。


「相馬さん」

「はい」

「この後、アレンが来るまで1時間くらい時間があるんです。
もし、お時間があるのなら、食事、つきあってもらえませんか」


勢いに任せて、誘ってみた。

沈んだ気持ちを復活させることが出来た今なら、ガードも緩いはず。


「……はい」


俊太のことがきっかけになり、僕たちはまた1歩、近づけた。




【6-3】

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