6 Instinct 【本能】 【6-3】

【6-3】


僕が塾に戻ることを考え、食事をする場所は、

相馬さんが知っている、駅前の小さな洋食屋を選択する。


「すみません、このお店だとあまりゆっくり出来ないかも」

「いいですよ。1時間後には戻らないとならないですから」


食べるものも、食べる場所も、正直どうでもいい。

あなたとこうして向かい合い、話すことの方が、目的なのですから。

それぞれが注文を済ませ、お冷やのコップをもらう。

注文を聞いてくれた女性は、あまり愛想のいい人ではなく、

どこかしかめっ面に見えた。


「怒っていませんか? あの人」


僕がそう言うと、相馬さんはすぐにその表情を確認する。


「怒っていませんよ。康子さん、とってもいい人です」

「康子さん、あ……そうなんだ」

「でも、いつも怒っているように見えるのは、見えますよね」


相馬さんはそう言うと、控えめに笑顔を作る。


「前に、別のお客様に言われていました。『君は怒っているのか』って。
そうしたら康子さん、子供の頃から、親に怒られてばかりいたから、
顔がこんなふうになりましたって、笑いにしていましたけど」

「親に……」

「はい。でも、笑いながら、確かにそうかもって」


人の表情。

何も知らない赤ん坊の頃には、目つきも悪くないし、眉毛の上がり下がりも関係ない。

でも、人は経験を重ねていくうち、その喜怒哀楽が顔つきを変えていく。


「塾に来る子供たちも、色々悩みを抱えている子と、そうではない子とでは、
顔つきが違います。受験が近くなるとまた、微妙に変わりますし」


俊太とアレン。僕が知っているのは、まだ二人だけれど、

相馬さんの言いたいことはよくわかる。


「私は……」


相馬さんはそこまで言うと、言葉を止めてしまった。

何も言わないまま、黙っていると、彼女の視線がスーッと僕を捕らえる。



まっすぐに、透明感がある瞳に見つめられている……



この人は、僕の何を瞳に映すつもりだろう。

僕の心の闇は、この人に見えてしまうだろうか。



「宇野先生……」

「はい」

「宇野先生は、人生をやり直したいと思われたこと、ありますか?」


人生のやり直し。

父を幼い頃に亡くし、母と二人で生きてきた。

貧乏でも勉強する場所はあったので、好きな研究を続けたくて、

『東城大学』を選択した。

当時も今も、日本で屈指と言える施設を持っている『東城大学』に入学したことで、

僕の未来は、まぶしさを失うことなどないだろうと、自信満々に歩いていた日々。



やり直せるのなら……

大学に入ることを辞めただろうか、それとも……

あのとき、柿沼に渡してしまった研究のデータを、たとえ犯罪者になってでも、

取り返そうとするだろうか。



何を真剣に考えているんだろう。

考えても、何もならないのに。



「やり直したいと願う人は多いと思いますよ、僕もそうですし」


今までの人生。100%だという人間など、存在しないだろう。

人の欲には、限りがないのだから。


「相馬さんは、やり直したいと思うのですか」


この質問なら、いいだろう。

きっかけを作ってきたのは、彼女なのだから。


「そうですね、私も思います。実際には無理ですけれど」

「はい」


怒ってはいないのに、怒ってみえる康子さんが、

それからすぐに僕らの料理を運んでくれる。


「宇野先生は、『東城大学』のご出身ですよね」

「はい」


なんだろう。

また、『東城大学』を目指したいという学生でも、出てきたのだろうか。


「どんなことを、学ばれていたのですか」


僕に対する質問。

大学でどんなことを学んでいたのかとは、専攻が何かということだろう。

先日、PCを動かしたときには、情報処理ではないのかと、そう聞かれた。

そうではないということだけを告げ、核は語らなかったが。


「どんなことを……ですか」

「はい」


僕が何を学んでいたのか、あまり細かく語ってもわかってもらえないだろうけれど。


「なんだか質問されることに慣れていないからかな。緊張します」

「あ……すみません」


そう、緊張することは間違いない。

相馬さんが、どういう事実なのかはまだ見えていないとはいえ、

あの柿沼とつながりがあることを、僕は知っているから。


「学部、どこだと思います?」


『東城大学』は総合大学のため、理系だけでも学部が結構ある。




「……理学部」




言い当てられた。




【6-4】

コメント、拍手、ランクポチなど、
みなさんの参加をお待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/2948-7b325acf

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
319位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
4位
アクセスランキングを見る>>