7 Conditions 【条件】 【7-1】

7 Conditions 【条件】

【7-1】


『三流』



人の経歴を疑い、文句をつけることも腹だたしいが、

自分が選んだ、教師という職業に就きながら、

教え子に対して『三流』という表現を使うことがありえない。


「アレン、君は自分を三流の人間だと、そう思うのか」


イタリア人の父と、日本人の母を持つアレン。

しかし、親は正式な夫婦ではないため、アレンは母と二人で暮らしている。


「それとも、思わないのか?」


自分のことではないはずなのに、なぜか本気で腹が立った。

明らかに授業から脱線しているが、このまま流せない。


「髪の毛、天然パーマなことも、小さい頃からよくからかわれたし、
言葉だって結局、日本語しか出来ないでしょ。
それに、お前のお父さんはどこにいるんだって、男の子たちに言われたりして……」

「うん」

「三流と言う表現がふさわしいのかどうかわからないけれど、
普通じゃないとは思っている、非常に残念だけど」


アレンは精一杯ふざけた顔を見せながら、悲しみを必死にこらえているように見えた。

生まれた境遇、これは本人にどうすることも出来ない。


「うち、貧乏なのにさ。お母さん、大学に行けってうるさいんだよね」



『柾、大学に行くんだよ』



遠い昔、僕も同じ事を言われた。

貧乏人が生活をよくするためには、とにかく学業を頑張ることだと……

母の声が、ふと、頭をよぎる。


「同じだ」

「同じ?」

「先生の家も、アレンの家と変わらないよ。間違いなく貧乏だったし、
父親は小学校の頃、病気で亡くなったしね。
そこからは母が一人で育ててくれて、でも生活は楽じゃなかったから。
大学へも、大学院へも、僕は『奨学金制度』を使った。
あ……そこだけはアレンと違うな。悪いけれど、僕は頭がいいから」


わざと、憎まれ口をたたいてやった。


「は? 何よその言い方、先生なんだもの、頭がいいに決まっているでしょ、
もう、すごい嫌み……」


アレンは、頭にきたと言いながら、顔は楽しそうに笑っている。


「アレン、君はまだ高校1年生だろ。
そんな三流教師が相手だと、腹が立つこともあるだろうけれど、
そこはグッと大人になって、ニッコリ笑っておけ。そいつが教室から出たら、
思い切り背中に向かって舌を出してやればいい」

「柾……」


アレンは、そんなことを言っていいのかと、驚いた顔をする。


「教師だから、生徒に崇められて当然だと思うほうがおかしい。
崇められるだけの人間性がないやつは、舌を出されて当たり前だ」


僕は、教育委員会に所属するつもりもなければ、

これからも長く、講師を続けていこうという思いも何もない。

好き放題の意見だけれど、決して間違っているとも思えない。

僕が学生として過ごしてきた時代の中でも、『教師』『教授』という名前を持ちながら、

最低な人間だと思えるヤツも、何人かいた。



そう、今もその男の分厚い唇が、鮮明に浮かぶくらい……



「過激だね、柾」

「過激か? 一流のホステスなんかみんなそうだぞ。
気に入らない客も『札束』と思って、プロの接待が出来るだろ。
脂ぎった手で触られても、嫌な顔はしないけれど、その客が帰った後は、
みんな『除菌シート』で拭きまくる」

「あはは……」


アレンは、私はホステスじゃないですけどと、僕が問題を解いた紙を、

半分に折りたたんだ。


「そんな三流教師の授業はボイコットすべきだろうけれど、
そうしたら可能性が狭まるから、今は、とにかく我慢だ」

「……うん」


高校1年生。

まだまだ輝く未来は、これからだ。


「柾……」

「ん?」

「ありがとう。あいつが出してきた問題、スラッと解いてくれて、
胸がスカッとした」

「……そっか」

「うん」

「それならそろそろ、柾ではなく、しっかり宇野先生と呼びましょう」

「どっちだっていいの。ちゃんと尊敬してますから」


アレンはそういうと、僕が解いた紙を、自分のお守りにするとポケットにしまう。

僕は問題集を開かせ、とりあえず一気に解いてみろと、そうアドバイスした。





アレンの授業が終わり、その日はまっすぐ家に戻った。

帰宅途中も、相馬さんから連絡があるのではないかと、何度も確かめたが、

メールもなければ、電話もない。

マンションのエントランスを通り、郵便受けを見ると、

不在の宅配が届いているという印が、部屋番号の上で点滅していた。

僕は鍵を差し込み、決めている暗号を入力する。

ボックスの中にあったのは、

以前仕事を頼まれた『農業組合』からのダンボールだった。

手に持つと、結構な重みがある。

おそらく、『ストレイジ』が開発した苗を使って収穫できた、野菜たちだろう。

僕は自炊をしないので、実物は結構ですと何度断っても、

遠慮だと思われるのか、いつもこうなってしまう。

僕らにとっての報酬は、基準をクリアしたというデータ。

『ここに頼めば間違いない』という信用。

それでも、相手の好意。その気持ちだけは嬉しいので、

落とさないように抱えながら、エレベーターに乗り込んだ。




【7-2】

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