7 Conditions 【条件】 【7-2】

【7-2】


鍵を差し込み、部屋へ入る。

人の気配を察知し、自然に灯りがつく仕組みになっているため、

僕は箱を抱えて転ぶようなこともなく、リビングへ進む。

テーブルの上にダンボールを乗せ、とりあえずネクタイを外していると、

携帯がポケットの中で揺れだした。

外しかけたネクタイから手を離し、すぐに携帯を見る。

相手は、相馬さんだった。


「はい……」

『あ……あの、宇野先生ですか』



来た……



「はい。今、部屋に戻ったところです」

『そうですか。アレンの授業が終わってから、ある程度時間、
帰宅までのお時間を見ていたつもりだったのですが、すみません』

「いえ……待っていましたから」



待っていた……

そう、言葉がスッと出て行った。



『はぁ……』


相馬さんは、逆に黙ってしまった。

相談したいというメールに対し、『待っていた』など、興味本位だと思われただろうか。

もう少し他の表現があっただろうに、考えもなく言葉だけが飛び出てしまった。


「すみません、変な意味ではないです。ただ、何か相談に乗ることが出来たらと、
あれからずっとそう思っていたので」


『ストーカー』

浪人生の男が、そんなことにならないように。


『ありがとうございます』


相馬さんは、やはり気付いていた。

あの浪人生は、すでに数回、相馬さんに手紙を渡しているという。


「手紙ですか」

『はい。本当にメモ程度の紙に書いてきて、堂々と手渡してくれるので、
始めはあまり深刻に捉えていなかったのですが』

「はい……」


『試験頑張ります』や『この休みは勉強に集中した』など、

最初はどうでもいい言葉だけが書いてあったという。


『それが、だんだん内容が変わってきて』


内容の変化。それはひとつ感情が変化したということ。


「……たとえばどんな言葉なのか、聞いてもいいですか」

『あの……』

「はい」

『今、受験の大切な時期だと、彼が一番わかっていると思うんです。
だから、きっと私をからかっているのだとは思うのですけれど……』


確かにその通りで、合格するまでは全てを我慢するつもりで、彼らもいるのだろうが、

男と言うものはやっかいなところがあって、適当に気持ちをそらしていかないと、

コントロールがきかなくなることも、あるような気がする。


「何か刺激的なことでも……」

『あの……』


話しにくいのかもしれない。

元々、そういった話が得意そうな人ではないから。


「もし、話すのが嫌なら、無理にいいですよ。だいたいわかりますし。
たとえば、手をつなぎたいとか、デートしましょうとか……キスしたいとか」



それよりもっと刺激的なことだろうか。



相馬さんからの返事はない。

違うと言われないところを見ると、おそらくビンゴ。


「相馬さん」

『はい』

「僕はその学生がどういう性格なのか、正直わからないところがありますけれど、
19歳という年齢です。『男』だと思わないと」


学生だというくくりにしてしまったら、隙を見せかねない。


「大げさではないかとか、おそらくすぐに治まるだろうとか思わずに、
教室長に話をした方がいいです」

『そうでしょうか』

「はい。相馬さんは、彼を学生と見ているでしょうが、彼はおそらく、
あなたを事務の人ではなく、一人の女性として意識しているはずですから。
冗談でも、からかっているわけでもないと思いますよ」


19の男と、28の女。

恋愛に背伸びをしたがる若い男なのだから、間違いが起こっても、何もおかしくはない。

もし、誰もいない廊下を一人で歩いていたりしたら、

急に抱きつかれる事だって、ないとは言えないだろう。

理性を本能が飛び越えてしまう事件は、そこらじゅうにある。


『あ……はい』

「そこまでと思う気持ちもわかりますが、自分でなんとかしようとして、
深みに嵌ると大変です。とりあえず教室長の耳には入れておいたほうが」


何かが起こってからでは遅い。

全く、ガキのくせに……


『わかりました』

「大丈夫ですよ、教室長はきっと慣れているでしょうから、
いいアイデアをくれるはずです」


そう、最初の面接で、僕自身がそう言われた。

学生と問題を起こさないで欲しいと……


『そうですね、明日にでも話してみます』

「はい」


これでよかったのだろうか。話が終わってしまった。

結局、教室長に話をふれと言っただけだ。

『待っていました』と言ったのに。


「すみません」


アドバイスという点から考えると、何も出来ていない。


『宇野先生、どうして謝るのですか』

「いや、待っていましたなんて言っておいて、僕がしたことは、
話を右から左へ動かしただけのような」


冷静に考えると、本当にそれだけだ。

頼りがいのないやつだと、思われただろうか。


『いえ、そんなことはありません。
宇野先生に教室長へ相談したほうがいいと言われたことで、決心がつきましたから』

「そうですか」

『はい。確かに、どうしよう、どうしようとあたふたしているほうが、
学生に対してもよくない気がしますし』

「そう言ってもらえたら、少しほっとしました」


空いている片手で、あたらめて外す途中になっているネクタイに触れた。


「あ……」

『……どうしました?』

「すみません、急に。あの、相馬さんは食事は自分で作りますか?」


そう、話す内容はここにもある。

僕は、目の前にあるダンボールのガムテープを右手ではがした。




【7-3】

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