7 Conditions 【条件】 【7-5】

【7-5】


『相馬郁美』

途切れ途切れに入ってくる情報を、頭の中でかき集めていく。

まだ、1本の線になり、それを強く引きながら運命をたぐり寄せるのは難しいが、

最初に思い込んだ柿沼の隠し子という線は、ない気がしてきた。

となると、『愛人』という線に戻るしかないのだけれど……



僕は、大学院を出てから名の知れた企業に入り、ある程度の収入を持てたし、

結婚など安定を望まなかったため、女性との距離を保ちながら、

適当な付き合いを続けてきた。

『愛』が全てだと胸を張り、たとえどんな暮らしも受け入れる、

仏のような女もいるだろうが、だいたいの女は、人生の計算をしっかりするものだ。

『金』や『地位』をまとうことが好きな女の生臭さは、

僕を見る目と、求める目で見抜けるつもりだったけれど、

相馬さんがそれを一切出さないくらい演技がうまいのか、

柿沼との関係は、僕が思っているようなものとはまた、違うのか。

今のところ、自分を納得させるような顔が、見えてこない。



『お付き合いをしている……』



それにしても、教室長のあの言い方は、

僕に相馬さんを薦めようとした……からだと思う。

だとすると、柿沼が彼女に気持ちを向けていたとしても、彼女自体、

それを心から受け入れているわけではないのかもしれない。



『男がいない』イメージを、相馬さんが周りに持たれているのだとしたら。



このまま近付いて、信用させることが出来たら、

あの柿沼が大事にする女に、今よりも近付くことが出来る。



柿沼が抱えている色々な事実。

スキャンダルになるかもしれないようなこと。

相馬さんは、何かを知っているのだろうか。

『娘』でも『愛人』でもない関係……



もし、それがどういうことなのか、彼女から聞きだすことが出来たら、

風の流れのように過ぎていく僕の人生に、少し色がつくのかもしれない。



おもしろくない日々が、少しだけでも、刺激的なものに……



変わるのかもしれない。





「いやぁ、柾。山田のご乱心は相当なものだぞ」

「尚吾、お前それどこから聞いた」


驚いた。富田さんの情報は、マスコミだから特別なのだと思っていたのに、

尚吾の耳にまで、あの二人の不仲が伝わっているのだとしたら、

それこそ、冗談ではないのかもしれない。


「どこからって、職場の先輩からだよ。言っているだろ、
柿沼に対して、色々と思いがあるのは、お前だけじゃないんだって」


『SAZAMI』に勤める尚吾が、会社の用件で近くまで来たと連絡を寄こしたので、

その日、特に仕事がなかった僕は、家へ呼んだ。

あいつは、得意先の部長が教えてくれたという町の鮮魚店で、

刺身の土産を作ってもらい、日本酒片手にやってきた。

酔うには少し早い時間の気がしたが、仕事はもう終わったという尚吾につきあって、

そこから晩酌となる。


「あぁ……これ、うまい」

「うん、確かにうまいな」

「だろ。うちの同僚たちはさ、全国を仕事で回るから、どこの何がうまいってこと、
色々と知っているんだよ」

「だろうな」


日本酒を口に含み、鼻に上がってくる香りを感じる。

抜けていく瞬間が、心地いい。


「山田がご乱心となれば、柿沼の相当な情報が漏れるはずだぞ。
なんだよ、新聞記者から聞いたのなら、乗ればよかったじゃないか、柾。
あいつのご乱心に」


尚吾は、置いてあったクッションをつかみソファーに横たわると、

それを首の後ろに置く。


「嫌だよ。大学時代、あいつがどれだけ柿沼のご機嫌をとっていたと思う。
富田さんから聞いた時には、本当に全てが初耳だったし、
本当に裏切っているのかもわからなかったんだ。でも、もし裏切っていたとしても、
山田のためになるようなことはしたくない」


息子の不始末と、金まみれの出世。

僕にしてみたら、山田も柿沼もどっちもどっちだ。


「息子を奈落の底に突き落とした恨みは、大きいぞ」

「奈落って……盗撮だぞ、冷静に考えたら、今回のことに限って言えば、
息子を庇おうとする山田が悪いと思うけどね、俺は」


レベルの低い争いだけれど、法律違反の帳消しを人に頼むというのは、

反省のかけらもない。


「そんなの当たり前だろ、普通の常識で考えたら。でも、あいつらはさぁ、
自分のことはこっちにおいて、忘れちゃおうってことが出来る人種なんだよ。
完全な、自己中心的で強靭な精神力」


尚吾はそういうと、ソファーに座りなおし、マグロの刺身を口に入れた。

すぐに顔がゆがみ、わさびをつけすぎたと、軽く鼻をつまむ。


「それで、お前のゲームは続行中なのか?」

「ゲーム? あぁ……」

「ゲーム? って、おいおい、もう忘れているわけじゃないだろうね」

「忘れていないよ、しつこいな」


そう、忘れてなどいない。

一瞬、ゲームと言われて、返事が遅れただけだ。


「彼女との距離は、着々と近付いている気がするけどね」


最初のイメージだと、もっとガードが固いかと思っていたけれど、

近頃の相馬さんを見ていると、この調子で前へ進んでいけたら、

案外早く進むかもしれない気がしてきた。


「ほぉ、どんなふうに」

「僕の話を、いい意味で素直に聞いてくれる。
信用されているというのが、わかるようになった」

「信用?」

「あぁ……」


プライベートの相談、住所のこと、相手が嫌だと思う男なら、まず教えないだろう。


「へぇ、この分譲マンションか」


僕は、彼女のマンション付近の地図をプリントした紙を、尚吾に渡した。




【7-6】

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