8 Efficiency 【効率】 【8-1】

8 Efficiency 【効率】

【8-1】


『岩佐教授』か、『柿沼教授』か……

あの当時の『東城大学 理学部』では、あまりにもわかりやすい構図があり、

ほとんどの学生が、どちらかのエリアに所属している状態だった。

柿沼の方が、あれこれ動いてくれそうだと、確かに媚を売るやつは多かったが、

ただ、擦り寄るだけの学生を、あいつは望まなかった。



自分に何を返してくれるのか……

こいつをそばに置けば、何を生み出すのか……

リターンのない学生など、一切相手にされず。



「おい、純。お前さぁ、その飲みっぷりだから嫁さんに行けないんだよ」

「ん? 何よ、いいでしょ」


澤野さんのからかいに、富田さんは軽く舌を出す。


「そうですね、僕は確かに岩佐教授派です」


今日も誤魔化そうと思っていたけれど、隠す必要などどこにもないし、

山田が情報源ならば、どっちみち明らかだ。

岩佐教授がいなければ、色々な意味で、今の僕はいない。

これだけ頑張ることも、またこれだけ苦しむことも、なかっただろう。


「教授が病気で亡くなるようなことがなければ、
今のような勢力図にはならなかったと思うのですが。それは運命ですから」


そう、変えようのない『運命』


僕が話しについていったので、富田さんは飲みかけのグラスを下におく。


「二人がライバルとして『東城大学』に君臨していた頃、
大学全体の評価は、岩佐教授の方が高かったそうですね。
だからこそ、色々な業界からの甘いお誘いもあったようですが、
岩佐教授はそれをことごとく断った」


そう、学生からの評判も、どう考えたって柿沼よりも岩佐教授の方が上だった。

しかし、それが出世につながらない。


「アメリカでバイオ研究のトップを走る『スミリオン社』の系列が、
製薬会社の『ラボンヌ』なのだけれど、福本議員の秘書がらみの話しは、
どうもここら辺が関わっているみたいなの」



『ラボンヌ』



『スミリオン社』の系列。そうだった、『ラボンヌ』は関連企業だ。

新薬の開発に力を入れていて、世界で賞を獲ったような研究者たちを、

莫大な金を使って、引き抜くと聞いた。


「その会社が岩佐教授と、つながろうとしていたということですか?」

「そこら辺はわからないの。逆に宇野さんの方が知らない?
だって、大学で教授の近くにいたのでしょ」

「いや……」


とにかく、岩佐教授は白で、柿沼教授は黒、

そのイメージを持つのは、当時の『東城大学 理学部』に籍を置いた学生なら、

ほとんどが思っていたことだろう。


「僕は大学の頃、研究をしているか、生活のためにバイトをしているか、
ほぼどちらかの生活をしていたので、
実際、教授のことをしっかり見ていたわけではなくて」


そう、尚吾なら、お菓子を教授室に持ち込んで、

あれこれ無駄話をしていた時間も結構あるだろうが、

僕にはあまりそういう記憶はない。


「そう……」

「はい」

「まぁ、大学の教授達だものね。学生に色々とばれてしまうような細工は、
するはずないか……」



細工……

岩佐教授にも、柿沼教授のような事実があるということだろうか。


「『ラボンヌ』はね、日本では『明林製薬』と提携しているでしょ。
山田教授の息子さんがいたのは、さらにその分裂企業『MAISE』。
なんだか色々とからみそうなのよ。
『ラボンヌ』が日本にきっかけを作り出してから、10年。
ここらへんも、どうも気になってね……」


まだ、何も情報らしき話をしていない僕の前で、

普段どおりの表情を見せている富田さん。

実は、何か言えない『真実』を、知っているのだろうか。

僕は、グラスを手に取り、ウイスキーを飲み干した。





「相馬さん」

「はい」

「この間は、ありがとうございました。しばらく塾に来ていなくて、すみません、
お礼が遅くて」

「……あ、いえいえ。こちらこそ、美味しいお野菜、たくさんいただいて」

「そんな、僕は押し付けただけです」

「いえ、それに……色々とありがとうございました」


『いろいろ』とは、どういうことなのか、僕達だけがわかる言葉に小さく頷く。

今日は、5日ぶりに塾へ顔を出した。

『かぼちゃのタルト』の礼をして、『ストーカー』の礼は受け取った。



さて……



そばにいるのは、少し耳の遠くなった世界史授業の講師だけ。

ここはチャンスと見るべきだろう。


「あの……」

「はい」

「来週、食事にでも行きませんか」


塾で会うときに語ることを繰り返しているだけでは、あまりにもことが進まない。

電話番号を知り、そして住所を知った。

教室長の話からしても、彼女は人と関わることが元々得意だったわけではないのだから、

ここは、少し僕が……


「伺いたいことがあるのと……」


そろそろ、内面を見られる位置へ動きたい。


「何か、あるのでしたら」


相馬さんは、今でも構わないですがという態度を見せた。

僕は、彼女を他の人たちから影にするような位置に立つ。


「ご迷惑ですか、こうして個人的にお誘いすることは」


あまり強引に誘うのもよくないだろうが、多少の強さは持たないと。


「あらたまった場所が嫌だと言うのでしたら、それは仕方がないですが」


きっと、彼女は断らない。

ここのところの態度を見ながら、一歩前に出た。




【8-2】

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