8 Efficiency 【効率】 【8-6】

【8-6】


『岩佐幸志』

言葉にウソがなく、将来のある若い人材を、大切にしてくれた人。

尊敬されるべく道を、研究者として最後まで突き進んでくれた人。



あなたの愛する『柿沼』とは、違いますが……



「岩佐……教授」

「はい」


この展開は、気に入らないのだろうか。

柿沼の話題が出てきて、さぞかし素晴らしい人だと褒めたほうが、

話しはスムーズに流れたのかもしれないが、そこは譲れない。



ウソの中にも、どうしても譲れない。



「その岩佐教授は、厳しい方でしたか?」

「そうですね、一生懸命にやらずに、諦めたりするとガッチリ怒る人でした。
失敗を怒るのではなくて、失敗するまでどうして突き進まないのだと、
そういう怒りをぶつける人で……」


『愛情』を持ちながら常に怒ってくれていたので、

岩佐教授に対して、恨みを積み重ねるような先輩も友達も、

僕の知る限りではいなかった。


「そうですか」


そう、岩佐教授は前向きに失敗をしても、怒る人ではなかった。

むしろ逃げること、諦めること、そちらの方を嫌がった。


「研究を続けるということは、結構孤独なものです。
毎日データを見て、微妙な変化を見抜かないとならないですから。
瞬きも我慢して見続けても、数字が1ヶ月、全く動かないなんてこともありますしね」


そう、研究室に入り、1ヶ月何をしても動かなかったものが、

その次の日、急に動き出す。そんな経験が何度もあった。


「あの教授がいなければ、僕は忙しさに負けて、
諦めていたことも多かったのではないかと思います」


そう、苦学生である現実だけで、精一杯だったかもしれない。


「学生からは、好かれていたのでしょうか」

「あ……はい。間違いなく……」

「そうですか」


なぜ岩佐教授のことを、これだけ聞こうとするのだろう。

柿沼の話しを、わざと避けようとしているのか。


「その教授が、理学部の一番偉い方だったのですか」


一番偉い方……

その瞬間、僕の心はまた現実に引き戻される。

そう、彼女の聞きだしたいのは、岩佐教授のことではないのかもしれない。


「東城大学理学部には、岩佐教授の他にも大勢教授がいましたから。
誰が一番偉かったのか、僕はあまり興味がないので、よくわかりません」


ここは僕の意地。

柿沼という名前は、絶対に出したくない。

何が偉いことなのか、企業に金をせびり、学生の研究を取り上げることなのか、

それを材料にし、就職先を斡旋していくことなのか。

そう、何が一番偉いのか、僕にはわからない。



「柿沼教授は……」



僕は、思わず『エッ』と声を上げてしまった。

相馬さんが堂々とあいつの名を口にするとは思っていなかったので、驚かされる。


「柿沼教授をご存知なのですか?」


ご存知なのは知っているけれど、あえてそう問いかけた。

相馬さんは、僕の様子を伺うような顔をしながら、

以前、テレビで見たのだと、その場を誤魔化そうとする。


「すみません、あれこれ……」


そこまで楽しそうに質問してくれていたのに、急に態度が変わってしまった。

申し訳なさそうに下を向いている姿に、自分の眉間にしわが寄っていた事に気付く。


「あ……いえ」


僕の表情がきつかったのだろう。

話題はそこで途切れてしまった。

こうなったら仕方がない。知らないと言う相手ではないのだから。


「柿沼教授も、僕が学生の時から大学にいらっしゃいましたよ。
まだ、あの当時は、今ほどメディアには出られてませんでしたけど」


何を本気になっているんだ。

彼女が柿沼の相手であることを知っていて、僕は近付いているのだから。

柿沼の話しも、最初からサラッとしておけばよかった。


「……そうですか」

「あの……」

「はい」

「すみません、大学時代の話ばかりするのは、少し照れくさくて」

「あ……ごめんなさい」


照れくさいというのは、違うかもしれない。

過ぎてしまって、取り返すことの出来ない話をすることが、

だんだん辛くなってきたという方が、正しいのかもしれない。


「ごめんなさい、私、つい……」

「いえ……」


少し進んだ食事は、また互いにストップする。

相馬さんは、色々と聞きだすようなことをして、すみませんでしたと、

あらためて頭を下げた。


「このエビ、美味しいですね」

「あ……はい」


『東城大学』の話題は、そこで完全に途切れ、そこからは世間話や塾の話しに戻り、

コーヒーまで飲み終えた僕達は、揃って店を出た。




【9-1】

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Comment

ももんた

拍手コメントさん、こんばんは
ごめんなさい、コメントをいただいていたのに、
お返事が遅れてしまいました。
本当に、本当に、すみません……

毎日、オリンピックを見ながら、名シーンの後ろに流れる
安室ちゃんに、感動させられております。
頑張ってくれたシーンを見るのは、何度でも楽しいから不思議(笑)

>最近、また最初から読み返しています。
 郁美さんが岩佐教授の娘だとわかってから、彼女の思いが知りたくて、
 彼女の言動を中心に読み進めています。8話も、納得です。

ありがとうございます。
『?』だらけだった郁美の姿を振り返ってもらって、嬉しいですし、
タイトルの意味も含めて、『あぁ、そうなのか』を
最後まで楽しめるものだと思いますので、
これからもぜひぜひ、おつきあいください。
  • URL
  • 2016/08/17 21:55

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