9 Tailing 【尾行】 【9-4】

【9-4】


「乾杯」

「何にだよ」

「何って、俺の昇進に決まっているでしょう」


8月も後半に入った日、尚吾がチーフという地位に昇進したといい、

許可もなく、勝手に家を訪れた。


「チーフかぁ……」

「はい、基本給料がめでたく上がりました。
それに、我が『SAZAMI』が来年アメリカの『リーメック』社と、
新しい事業にチャレンジすることが決まったということ……かな」


『リーメック』

ここのところ業績を伸ばしている、『製薬会社』。


「『SAZAMI』は食料品メーカーだろ、どうして……」

「人類はな、最初は腹を満たすために、獲物を得て、それを必死に食べていた。
だが、そこからどんどん進化し、量を取らなくてもいい食事を、
時間を取らなくても栄養を得られるものをと、欲求を高めていったわけだ。
今や、食事の代わりになるサプリメント、それが売れるわけだよ。
朝食を取るのは面倒だとか、移動中でも食事が出来る……とかね」


尚吾はそう言いながら、冷蔵庫をあけ、つまみになりそうなものを出してきた。

チーズにクラッカー、そしてなぜか枝豆。


「枝豆? そんなものなかっただろ」

「駅前にあったコンビニで俺が調達した。なぁ、柾、これ便利だぞ、
水で洗うだけで食べられる」


そう言いながら、尚吾は枝豆の袋の中にいきなり水を入れ、それを捨てた。


「お前、もう少しさぁ……」

「何だよ」


尚吾が、思い切り蛇口の水を出したので、流しのあちらこちらに飛び散った。

僕は尚吾のコンビニ論を聞きながら、食器棚から皿を出すと横に置き、

ペーパーを数枚手に取り、周りを拭く。


「あはは……悪い、悪い」

「悪いと思っていないだろ、その口調は」


と、文句を言いながらも、尚吾と飲むのは、とにかく楽しい。

自分で組織に所属することは嫌になったけれど、

そこで奮闘している人の話をただ聞いているのは、意外に楽しみもある。


「えっと、マヨネーズ」

「は? 枝豆だろ」

「いいだろうが、俺の趣味」


尚吾はそういうと、冷蔵庫を開けて、勝手にマヨネーズを取り出した。


「この間、元厚生大臣の秘書が逮捕されただろ」

「あぁ……あったな」

「あれは『リーメック』社が裏で動いていたという話しでさ」

「裏?」


『製薬会社』は、莫大な金額をかけて新薬を開発し、

それを認めてもらうために、色々と動き回る。

特許を取れれば、入ってくるお金は相当なものだし、

外国の製薬会社にしてみると、日本市場は非常に魅力ある場所だという。


「審査基準が厳しいだろ、その代わり、日本で認められているのならということで、
他からの信頼も厚くなる」

「かけひきか」

「そうそう、何事もそういうことよ」


尚吾は自分のワイングラスが空になったことに気付き、新しいワインをあける。


「10年、いやもう少し前かな。柿沼は『ラボンヌ』との結びつきが強かったんだ。
ほら、だから山田の息子も、そっち系の企業に就職させたわけで」



『ラボンヌ』



そういえば、澤野さんと富田さんと飲んだときも、この話題が出ていた。

あの日、岩佐教授の名前を出されて、少し動揺したけれど。


「そうだ、この間、別の人との飲み会でも、『ラボンヌ』の名前が出たな」

「別の人?」

「あぁ。中央新聞の記者の人」


富田さん。何か知っている雰囲気だったけれど、核は語らなかった。

なぜ、岩佐教授の名前が出されたのか、そこもわからなくて。


「『ラボンヌ』は昔から、色々と強引だったからな。俺たちがまだ学生だった頃も、
『東城大学』には、結構入り込んでいたみたいだし」

「……うちに?」


やはり、『東城大学』にも色々とあった。

だとすると、岩佐教授も……


「あぁ……お前は研究ばっかりしていたし、時間があればバイトだったからさ、
あまり内部のことに詳しくないのだろうけれど。教授が出てくるのを待ち構えて、
拉致状態のように車に乗せたりしたところも、俺、何度か見たことあるよ」

「拉致?」


知らなかった。

確かに大学の頃は、勉強しているか、バイトしているか、

時間の使い方は二通りしかなかったかもしれない。


「なぁ、岩佐教授も、そういうことをされていたのか?」

「……岩佐教授?」

「うん」


尚吾は、枝豆の房から豆を出すと、楊枝で刺し、

皿に入れたマヨネーズを軽くつける。


「いや、岩佐教授が拉致されていた記憶はないな。
そういう黒い部分の中心は、柿沼だろ」

「まぁ、そうだよな」


やはり、岩佐教授は白。

尚吾の記憶がないのなら、おそらく間違いないだろう。


「柿沼の金に対する鼻のよさは、天下一品だしね」


どうでもいい世間話。

柿沼が昔、贔屓にしていた企業から、ライバル企業に気持ちを変えたとしても、

自分のことを中心に考える男なのだから、そんなことは珍しくも何もないことだ。

おそらく、『金』の量が増えた、減った、そういうことなのだろう。


「うまい、これうまいぞ柾。お前もやってみろよ」

「嫌だよ、面倒だ」


ただ……

何かが動き出していることだけは、僕にも感じ取れた。




【9-5】

コメント、拍手、ランクポチなど、
みなさんの参加をお待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/2971-da52bde8

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
263位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
4位
アクセスランキングを見る>>