9 Tailing 【尾行】 【9-5】

【9-5】


「さて、今日で終わりだな」

「……うん」


8月の最終日。出産の休暇でお休みしていた庄治先生が、

いよいよ9月から復活することになったため、

臨時で引き受けていたアレンの授業は、最後になった。

僕は、問題もよく解けるようになったし、このまま学力を伸ばしていけば、

大学進学も出来るからと、励ましの言葉をかけてやる。


「何よ、問題児と離れられるからさ、柾、気分がいいんでしょう」

「どういう嫌みだ、それは」

「だって、楽しそうだもの」


アレンはそういうと、問題集を片付け机に突っ伏した。

僕は参考書を閉じ、拗ねているアレンの背中を見続ける。


「庄治先生、嫌いなのか」

「ううん……別に」

「それなら大丈夫だ、やっていける」


教師に限らず、世の中は自分に合う人間ばかりではない。

勉強というしっかりとした意味があるのだから、ここは大人にならないと。


「……だったからさ」

「ん?」


一瞬だった、アレンが何を言ったのか、聞き取れなかった。


「帰るね」


アレンは急に顔を上げ、バッグを肩にかけ立ち上がる。


「おい、何か言ったか」

「別に、いいの……じゃあね、柾」

「……アレン」

「バイバイ」


最後のセリフがどういうものだったのかわからないまま、

アレンは教室を出て行ってしまう。

そのままわからないのでは、喉に何かが使えている気がして、

僕はすぐに荷物を持ち、その後ろを追いかけた。

しかし……



逃げ足が早く、見失ってしまった。



「どうされたんですか」

「あ……はい」


相馬さんが階段の下に立っていたので、僕はそのまま職員室へ戻る。

最初に買ってもらったカップに、温かいコーヒーが注がれた。


「すみません」

「いえ」

「今日でアレンの授業がラストだったんですよ。9月から庄治先生が戻られるので」

「あ……そうですね」

「それでまぁ、お別れの挨拶といえば大げさですが、ガンバレよと声かけしたのですが。
なんだかブツブツと」

「文句ですか?」

「いえ、文句ではなくて、何か言いたかったようなのですが。僕には聞き取れなくて」


なんだろう。

あいつの性格なら、もう二度と言わない気がする。


「きっと……嬉しかったってことです」

「嬉しかった?」

「はい……」


相馬さんは、自分のデスクに置いてあった小さな花瓶を僕の前に置いた。

中には、名前もわからない小さな白い花と、ピンクの花。

優しく可憐な花に見える。


「これ、授業に入る前、アレンが私のところに持ってきてくれました」

「アレンがですか」

「はい。学校のお友達の家が、フラワーショップで。
帰りに寄ったとき、この花たちが、間引きされていたらしくて」


アレンは、弾かれている花を見たとき、咄嗟にそれを拾い、

家に戻って小さな花瓶に入れたのだという。


「どんな花でも、こうして花瓶に入れてあげたら、しっかりと水を吸うって」


名前も知らない花だけれど、確かに、自分の場所を得て、力強く咲いている。


「私は今まで、こんな花と一緒だったけれど、柾が本気で怒って、
本気で褒めてくれたから、頑張ることが出来たって……」


本気で怒って、本気で褒めて……


「柾が水をくれたって……」


僕が……水……


「人に認められるということが、どれだけ勇気をくれることなのか、
私もそんなアレンの気持ちが、とってもよくわかって……」


家庭の複雑な事情から、世の中を斜めに見ていたアレン。

僕が本音で怒ったり出来たのは、彼女に対する遠慮も何もなかったから。

そう、ここで出世するつもりもないし、長く教えるつもりもなかった。

プラスというより、マイナスな……


「おそらく、そんな感謝の気持ちを、言いたかったのだと思います」


相馬さんはピンクの花に触れながら、優しい笑みを浮かべた。

僕は、その幸せそうな表情から、目をそらす。

ストレートに評価されてしまうと、どうすればいいのか、迷ってしまう。


「宇野先生には、不思議な力がありますね」


相馬さんはそういうと、スッと僕の前から離れていった。

デートの誘いに応えてくれるようになり、そして、キスも受け入れた。

さらに……



僕を信頼してくれているという、セリフ。



順調だと、思うべきなのだろうが。



あまりにもうまく流れすぎることが、逆に僕を不安にさせる。

でも、それを振り返っていては先に進まない。だから、見えないようにする。

そう、幸せそうな彼女の顔を、なるべく見ないように……



アレンが拾ってきた小さな花たちは、何も言わずに、ただそこに咲いていた。




【9-6】

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