9 Tailing 【尾行】 【9-6】

【9-6】


東京タワーと東京スカイツリー。

両方が見えるということが売りの店には、平日の夜にも関わらず、

結構な客が入っている。

僕は時計で時間を確認し、減っていくカクテルを見つめた。

ウエイターの声が聞こえ、人の気配がする。


「ごめんね、柾」

「……遅刻だな」

「仕方ないでしょ、色々とあったのだから」


いつものように互いの予定を聞きだすと、彩夏はいつもとは違う店を指定した。

決めたのは自分のくせにと、僕は嫌みをぶつけてみる。


「ねぇ……信じてくれる?」

「まだ何も聞いていないけど」

「もう!」


彩夏は僕の隣に座ると、『オレンジリキュール』を注文した。

そして肩をピッタリあわせ、前を向く。


「なんだかね、誰かにつけられている気がするの」

「つけられている?」

「うん。ここ1週間くらいかな。よく見る人がいて、
最初はあまり気にしていなかったけれど、場所が変わっても、また近くにいたのよ」


彩夏は、通勤してからも、それから僕とこうして会うために電車に乗る間も、

その男が着かずはなれずの位置にいたと、話し続ける。


「今もきっと、どこかで見ていると思う」


僕が振り向こうとすると、彩夏に止められた。


「ダメ、見たりしたら、向こうが……」

「いや、本当に追ってきているのなら、何がしたいのか聞いた方がいいだろう。
今なら僕がいるのだし」


彩夏が一人で家に戻る時に、妙なことをされるほうが、大変なはず。


「あいつじゃないのか」

「あいつ?」

「ほら、取引先の男。急に気に入られたって、前に……」

「エ……あ……うん」

「何をしているのか、どこに行っているのかって、気にしてとか」

「あ、うん」


女子力のある女性に弱いのかと思っていたら、姉ばかりの中で育ったので、

強い女性に惹かれるタイプだったという取引先の男。


「……あ、うん、そうかも。そうだ」

「なんだよ、その言い方」

「そうだわ。だって、休みは何をしているんですかとか、色々と聞いてくるもの。
そうよ、電話番号も誰かから聞いたらしくて、電話がしょっちゅうかかってくるし」

「いいじゃないか、気に入った男なんだろ」

「そう、そうだったの。でも、なんだかあまりにも女々しくて、嫌になってきた」

「わがままだなそれ」


彩夏は『オレンジリキュール』を一気に飲み干し、さらにおかわりをした。

僕は残っていたお酒に口をつけたが、一気に減らすようなことはせずに、

またグラスを下に置く。

本当に、彩夏を追いかけている男が、このどこかにいるのだろうか。


「はぁ……こうなったらいっそ、柾とベッドインしている写真でも、
あいつに見せてやろうかしら」

「何を言っているんだ」

「何をって、中途半端な方がよくないでしょ」

「巻き込むなよ。そんなものを撮らせる趣味は、僕にはないからな」


近頃は、そういう写真を好んで撮るカップルもいると聞くが、

冗談じゃない。面倒なことが嫌いだから、部屋にも女性を入れないのだから。


「もしかしたら私、男を見る目がないのかな」


彩夏はあらためて届いたお酒も、またグッと飲み干してしまう。


「ねぇ……」

「それをこっちに聞くのか」

「……あ、そうか」


彩夏がほろ酔い気分になるのを待ち、僕らはホテルの部屋へ入った。

不安な気持ちがプラスになったのか、時間をかけずにお酒を飲んだことが、

興奮度を高めたのか、その日の彼女は積極的で、刺激を自ら呼び込もうとする。

彩夏が肌を赤く染め、身体の全てを敏感に研ぎ澄ませている間、

僕は妙に冷静な状態で、彼女の吐息を受け止め続けた。




【10-1】

コメント、拍手、ランクポチなど、
みなさんの参加をお待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント