10 Apology 【謝罪】 【10-1】

10 Apology 【謝罪】

【10-1】


『ストレイジ』の研究によって、完成した新たな苗が、

来年から本格的に商品化され、市場に出回るようになった。

数年間は、実験的に栽培されるが、

もし、従来のものよりも災害に強いことが証明されれば、

あっという間に、広まるだろう。

水を使わずに育てる野菜ももちろん好評で、

その特殊な仕事振りが『中央新聞』に掲載される。

澤野さんは、片手にコーヒーを持ちながら、誌面を見る。


「なぁ、宇野。いいよなぁ、この『若きスタッフ』という響き」

「若くもないですけどね」

「いやいや、業界の人間たちの平均年齢からすると、俺も宇野も、ヤングだよ」

「……その言い方がおかしいですよ、澤野さん」


澤野さんが、宣伝効果があるだろうということで、富田さんに頼んだ記事だった。

全国紙とはいえ、20数枚ある中の、小さな囲み記事。

そう思っていたが、さすがに全国紙の力は強い。

予想以上に注文が増え、朝から事務所の電話が鳴りっぱなしだと聞き、

いつも冷静な社長も喜んでいた。


「よかったな、富田に頼んで」

「そうですね、会も盛り上がりましたよ」


人で賑わう発表会の会場から出ると、僕はエレベーターを待った。

ざわざわという声が聞こえたので、そちらに視線を移すと、

会いたくない男が、こちらに向かって進んでくる。



柿沼……



「あれ、柿沼教授だろ」

「そうです」

「来ていたのか」

「……のようですね」


元々、僕達は表に出るスタッフではないため、誰が会場に来ているのかまで、

よくわからなかった。

僕はエレベーターの開く場所から少し離れ、澤野さんの横に立つ。

柿沼は、秘書とあれこれ話しながら、少し太めの身体を揺らし、

こちらに向かってくる。

視線が動き、僕を見るとあまりにも不吉な笑みを浮かべた。


「君は……宇野柾だろ」


別に、用事があるわけでもないのだから、無視してくれたらいいのに。


「はい、お久しぶりです」

「おぉ……そうか、やはりそうだったか。懐かしいな、元気か」

「はい」


お前に狂わされた人生を背負いながら、必死に生きているのに、

何が懐かしいだ。100%思っていないことだとわかるだけに、

ここにいることが息苦しいとさえ思えてくる。


「『ストレイジ』に関わっていたのか。いやぁ……この企業の業界への貢献は、
とてもすばらしい。今も社長に話をしてきたよ。そうか、君が関わっていたのか、
それはそれは……」


相変わらずの大きな声。

相変わらずの嫌みな言い方。

年を取っても、地位を上げても、何も変わりがない。


「宇野君。君も、色々とご活躍のようだね。こういった研究部門にいるかと思えば、
全く関係のない部門で、頑張るとは……」



……全く、関係のない部門



「未来ある若者を指導するのも、いいことだよ」



エレベーターが開き、柿沼が乗り込んでいく。

澤野さんがどうするかという顔をしたので、僕は首を振った。

ただでさえ、関わりたくないのに、エレベーターという密室に一緒に入るなど、

さらに苦痛が重なるだけだ。



『未来ある若者を指導する』



柿沼は、僕が『SOU進学教室』にいることを知っているのだろうか。

それはつまり……



相馬郁美が話しているということになる。



「あれが柿沼教授か。体格もあるだろうけれど、まぁ、すごい威圧感だな」

「そうなんです、昔からああいう男です。声もでかく、態度もでかく」


『SOU進学教室』にいることを知っているのなら、

柿沼は、僕が相馬さんに近付いていることも、もちろん、気付いているのだろう。

それでも、絶対に自分のそばから離れないという自信があるのだろうか、

人を下に見る、いつもの笑みだけだった。



これは『ゲーム』

あの男を、頂点から引きずり落とすことなど出来やしない。

そう、それはわかっているからこそ、だから僕は……


「行きましょう」

「うん」




あいつが大切にしている相馬郁美を……自分の方へ振り向かせたいのだから。




【10-2】

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ももんた

ラウレさん、こんばんは

>今回はドキドキ感が強いので目がはなせません
 暑くなって来ましたが、体調に気をつけてください

ありがとうございます。
楽しみにしていただけて、嬉しいです。
毎日、少しの時間でも、書き進めていくのが、私の健康法かもしれません。
これからも、よろしくお願いします。
  • URL
  • 2016/06/06 23:20

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