10 Apology 【謝罪】 【10-4】

【10-4】


目的階に到着し、扉が開く。

僕達はしっかりと手をつなぎ、その部屋を目指した。



差し込むカードキー、開放を告げる電子音。

閉じられるドア、壁に背中の当たる音、下に落ちるバッグ。

そして……


そこまでの音が全て消えていき、首筋から彼女の香りが届く。

遠慮がちな唇に、僕は堂々と入り込んだ。

彼女は覚悟を決めたのか、僕の首に手を回し、支配された唇を離すと、

大きく息を吐く。

少し急ぎすぎているだろうか。


「ごめん……気持ちが焦っているのかもしれない」

「ううん……」


彩夏との、慣れたキスではないから緊張するのか、

それとも柿沼の相手を奪い取るという感動から緊張するのか、

よくわからないけれど、波打つ鼓動の強さは、久しぶりのものだった。


「やっと……君とここまで来られた」


僕はあらためて唇を合わせ、彼女のボタンをはずしていく。

右手でスカートを捲し上げると、彼女の左手がその動きを止めた。


「……どうしたの」


どうしたというのだろう。

まさかここまで来て、その気がないと言うのだろうか。

相馬さんの目は、何も語らないまま、僕を見続ける。


「どうした……」

「ううん」


彼女は自らスカートのホックを外すと、先に脱いだ上着と一緒に、

横にある椅子へかけた。そして、ベッドの横に腰かける。


「ごめんなさい、踏んでしまいそうで……」


恥ずかしそうに下を向く彼女。

よかった……考えていたこととは違うようだ。

僕はネクタイを外し、自分でワイシャツを脱ぐ。


「ごめんなさい、なんだか変なことを言ってしまって……」

「いや……気にしないで」


どこかギクシャクした時間だったけれど、それが彼女らしいと思え、

否定する気持ちにはなれなかった。

もう一度、気持ちを整えるために、彼女の髪に触れる。

そして、唇を重ねながら、柔らかなベッドの上へと導いた。





「ふぅ……」


その日は、タクシーで相馬さんを送り、家に戻ってくるとすでに日付が変わっていた。

僕は明日、定時に仕事へ行くわけではないけれど、彼女はそうではない。

もう少し早く、解放してあげればよかったのかもしれないが、

気付くと時間が積み重なっていた。

彼女が確かに腕の中にいることを、何度も自分で信じようとしたのか……

なかなか、気持ちも身体も離すことが出来なくて。


どういう道をたどろうと、行き着く先はいつも同じ。

『ゲーム』のマスに止まった時は、その指示を受けたらさらに次へ進む。

終わったことを思い起こす必要などないし、振り返っても何もない。

そう、また次の日が来る。



でも……



柿沼の『愛人』だと思っていたからだろうか、

予想を裏切られるほどの恥じらいぶりに、正直、困惑した。

それと同時に、何か大きな罪を背負ったような、気分にもなった。

いや、罪なのはわかっていて、僕は足を踏み入れた。



だからなのか……



抱きあってから、

こんなに残したものが大きい気がするのは……




初めてだ。




携帯にメールが届き、僕はすぐに相手を確かめる。

彩夏だとわかったとき、どこかに予感した不安な思いが、消えていく。



『明日、会えない?』



慣れた人との時間。

本能のまま、快感を求め合えば済む。

僕はすぐにOKの返事をした後、この間、尚吾が残した小さなワインをあけた。





『ストレイジ』での仕事を終えて、塾へ向かう。

今日は午後1番に本田君の授業があり、

夏休みにどれくらい課題をこなせたのかというテストをした。


「先生、どう?」

「うん……なかなか出来ている」

「よかった」


見始めた頃には、問題を解くリズムが遅いことが気になったが、

これなら時間内に全てを考えることが出来るだろう。

少し解き方が気になる箇所があったので、説明しようとしたが、

廊下が騒がしくなり、バタバタと音が聞こえてくる。


「庄治先生、落ち着いてください、少し待って……」

「何をどう待つの? 私が直接言います」


庄治先生。

一緒にいるのは、相馬さんだ。


「庄治先生……宇野先生は……」

「宇野先生。少しいいですか」


今は授業中。『いいですか』なんてありえない。

同じ講師の立場で、何を邪魔しに来ているのだ。


「すみません、今は授業中ですが」

「えぇ、それは十分私も承知しています。
しかし、私ではなく、山東アレンが求めていることですから。
宇野先生でなければ、死ぬくらいの勢いですよ」


山東アレン。

彼女が今頃、何をしていると言うのだろう。




【10-5】

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