11 Criminal 【罪人】 【11-3】

【11-3】


「お世話になりました」


アレンの母親が警察に到着したのは、それから1時間後のことだった。

塾からあらかじめ話しも入っていたし、場所と距離を考えると、

ずいぶん時間がかかったと思うけれど、お店をしているので、

すぐには出られなかったのだろうと、考えることにした。


「宇野先生」

「はい」

「私、一度塾に戻って、教室長に話をしますので、これで失礼します」

「あ……いえ、それなら僕も」

「いえ、宇野先生には、ここまでしていただいているのに、申し訳ないです。
報告なら私にも出来ますので」


相馬さんは僕に頭を下げると背を向け、アレンと母親を追うように去っていく。

警察の目の前にあるコンビニの時計を見ると、

思っていたよりも警察にいた時間が長く、針は予想以上に進んでいた。



『今日はキャンセル』



なんとなく、彩夏にそんなメールを打とうかという気分になっていたのは、

あまりにもアレンの母親が、手馴れているからだったかもしれない。

ほぼ表情を変えないまま、警察の人たちに挨拶をし、

簡単な書類を記入した後、アレンの背中を一度だけ叩いた。

僕が親なら、何をしているのだと感情をむき出しにしそうなものなのに、

ただ、右から左にことを動かすように、その場を去っていった。


『愛されていない』と以前言っていたアレン。

別に、ベタベタされることが愛情だとは思わないけれど、

泣いたり笑ったり怒ったり、人とはそういうものでないだろうか。


この話を語るのは、彩夏ではない気がして……

もたついた気持ちを、彼女といれば整理できる気がしたけれど。


「さて……」


やることはやった。いや、やるべき以上のことをやった。

僕は、彩夏と待ち合わせをした店へ向かうことに決め、

その日、本来、見るはずだった方を見ることにした。





「どうぞ」

「ありがとう」


今日の待ち合わせは、カウンターバー。

バーテンダーが世界一になったということで、一時はなかなか入れない店だったが、

人の熱は冷めやすいのか、すっかり静けさが戻った。

シェイカーのカシャカシャという音が、心地よく耳に届き、

蓋を開けて出てきた色の鮮やかさに、思わず見とれそうになる。


「どうぞ……」


受け取ったグラスを指で挟み、自分の方へ引き寄せる。

待ち合わせの時間を、10分過ぎた。

どうしたのだろう、彩夏が遅れるのは珍しい。

2杯目のカクテルが半分くらいなくなった時、待ち合わせの人が、やっと姿を見せた。


「ごめんね」

「いや、どうした。仕事?」

「うん……」


歯切れの悪い返事。

おそらく仕事ではないということだろう。

彩夏は隣に座り、軽く首を動かしている。


「何、またストーカー?」

「違うわよ。そうじゃない」


カウンターの中にいた店員が、彩夏に注文を取りに来た。

彩夏は注文を終えるとほおづえをつき、しばらくバーテンダーの動きを見ていたが、

シェイクする音が聞こえなくなった頃、僕の方を見た。


「ねぇ、柾」

「何?」

「柾さぁ、親とか仕事の上司とかに、『見合い』薦められたことある?」

「見合い? いや、ないなぁ」

「親にも?」

「まぁ、そうだね。母は僕の性格を知っているから、無理なことはしないよ」


人の意見を素直に受け入れるような人間ではないこと、

母は、わかっている。


「そう……」


『見合い』

今日の彩夏の嘆きはそこかと、僕はまたカクテルに口をつける。


「どうして女にはそうなるのかしら。別にほっといてくれたらいいのに」

「上司から見合いを薦められたのか」

「そう……」

「ほぉ」


カクテルを作る音が聞こえ、彩夏の前に『カルアミルク』が届く。


「私ではなくて、他の方はって、いかにも女子力がありそうな子を薦めてみたの。
そうしたら、『あぁ、加藤さんはお菓子作りも出来るし、家庭的な子だから、
きっかけなんて作らなくても、嫁さんには行けるしね』って」

「ふーん、加藤さんは、女子力全開なわけだ」

「そうなの、いつもお弁当を作って持ってくるし、よく気がつくのよ、
本当に女子力は全開。でも、別のところも全開」

「は?」

「上司は知らないだけよ。彼女はもう数年前から、
不倫関係を続けている人がいるっていうのに。ちょっと家庭的なことが出来るだけで、
清純でいい女だと思ってしまうのよ、男って」



相馬郁美……

彩夏の話の中に、彼女の顔が浮かぶ。

裁縫なども出来、よく気がつくし、優しく人の面倒見もいい。

そう、彩夏がいう『女子力』のある人だけれど……



「確かに、そうかもしれないな」

「ん?」

「清純そうに見える女が、意外に裏では違うってこと。そういうことは確かにある」


あの日、彼女は恥じらいながら、僕の背中に手をまわし、頬を赤く染めていた。

僕を受け入れながら、反応してしまう声を抑えようと、

右の指を軽く噛む仕草があって……

あの恥じらいぶりに、気持ちが高まったけれど、終えてみてから思い出すと、

どこか怖い気持ちもあって……



怖さ……



「そういう女の方が、実は、平気で不倫して、
地位のある男を手玉に取る演技が、出来るのかもしれないなと」



そう、怖さがあった。

彼女は、柿沼にも、あの顔を見せているはず。

頬を赤らめ、汗ばむ肌を合わせているはず。

いや、もっと大胆に悦ばせて、『愛』を形で求めるのだろうか。



「具体的ね、ずいぶん」

「……そうかな」

「とにかく、私も間に合っていますので、見合いは結構ですって断るまで、
あれこれ時間がかかってしまったの」

「間に合っている?」

「そうよ。私……間に合っているの」


彩夏はそういうと、さらに仕事の愚痴を続ける。

僕は、そんな彼女の話を聞きながら、何度かわかったと頷いて見せた。




【11-4】

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