11 Criminal 【罪人】 【11-5】

【11-5】


数時間後に戻ってきた返事は、『OK』で、

僕は仕事を終えた後、相馬さんと食事をすることになった。





今日は急に決まったことなので、車はない。

彼女が仕事を終える時間を計算し、

以前も利用した、レストランへ行くことにした。

その前に、書店に寄り、気になっていた新刊をつかむ。

どういうスタートなのか、数ページ読んでから会計をしようと思ったのに、

なぜだろう、立ち読みした段階で、内容に気持ちが動かなくなった。

前評判が高かったせいだろうか、期待をしすぎてしまったのか、

結局、本を元の位置に戻すと、目的のないまま店内を歩く。



『新芽を伸ばす』



専門書のコーナー。平積みにされている本の著者は、『柿沼栄三郎』だった。

あのふてぶてしい顔を、プロのイラストレーターが嫌みのないイラストに、

描きあげている。

本についている帯の部分には、

生き物の生態に興味を持ち、芽生えた思いを形にしていくことの大切さ、

それがまとまらなかったとしても、次への一歩になるという、

『先を目指す若者』を応援するといった、もっともらしいサブタイトルがついていた。



『新芽』



もし、柿沼が新芽が出ることに気づいたとしたら、

おそらく、そこをしつこいくらいに踏みつけるか、上から薬剤を撒くだろう。

あいつにとって、コントロールできない『新芽』ほど、

やっかいなものはないはず。



『未来ある若者を指導するのも、いいことだよ』



思いがけず再会した日、柿沼は僕にそう言った。

そう、未来ある若者。それは俊太やアレンのような子供だけではない。

『不倫』という関係に、身を沈めている彼女も、未来がある若者の一人と言えるはず。

金と権威にとらわれた人生は、本当に楽しいのかと聞けるまで……



もう少し……



僕は何も買わないまま書店を出ると、駅の改札口前に立つ。

おそらく予定通りの電車で到着する、相馬さんを待った。





「あ……」


それぞれが注文し、食べ物がくる前の時間、

僕は相馬さんに、教室長から電話があったことを話した。

アレンの決定を相馬さんから聞いていたことはどこかに置いておいて、

全く知らなかったという演技をしたのだ。


「すみません、私、また同じ事を」

「冗談ですよ、そんなに申し訳なさそうにしないでください。
『あ、そうですか』って、それだけです」

「でも……」

「元々、そうなることは予想していたわけだし、大げさに驚く方がおかしいですよ。
それに、僕は演技に自信、ありますし」



そう、演技。

本心を見せず、『ゲーム』を動かしているのだから。



どういうことですかと、不思議そうな彼女の顔が見られると思ったのに、

相馬さんの口は、開くことなく閉じてしまう。

まるで、彼女もそう思っているのではないかと、勘違いするような……


「……はい」


肯定なのか否定なのかわからない答えが戻ってきたのは、数秒後。


「あの……」

「はい」

「今の台詞は、冗談だってわかっていますよね」


ピントがずれてしまうこと。彼女とのやりとりにはよくあることだ。

相馬さんは、今度は笑顔になり、わかっていますと返してくれた。


「それなら、いいですが」


笑わせたつもりが、笑わせられて……

彼女といると、どうも自分のペースがつかめない。

そこからはいつものように、塾のことが話題になった。


「親って、あんなものですかね」


アレンの母親。僕は、あの冷静すぎる対応が、妙に気になった。

もっと取り乱したりするものだと、勝手に思っていたし、

少なくとも、僕は母の本気の怒りに、幼いことから何度も触れた。


「僕は警察に連れて行かれたことはないですが、学校でちょっとした悪さをして、
母に鍋の蓋で叩かれたことがあります」

「鍋の蓋ですか」

「はい。そのときの痛さは、今でも残っているような……」


残っているわけではないだろうが、そんな気持ちだった。

その痛みの中に、申し訳なさを感じ取れたのだ。


「人前で怒るのはとか、そういう気持ちだったのかな」

「……うらやましいです」



うらやましい……



相馬さんが戻してきた言葉は、僕の幼い頃の思い出に対してだった。




【11-6】

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