11 Criminal 【罪人】 【11-6】

【11-6】


『人に認められない辛さは、見てくれないという寂しさは、
私自身よくわかるので……』



そういえば、アレンを引き取りに警察へ行く前、相馬さんは確かに言っていた。

彼女も、あまり恵まれた親子関係ではなかったのだろうか。


「親に叩かれたのが、うらやましいですか」

「はい。それだけ、親を身近に感じられることが、うらやましいです」


相馬さんには、すでに親がいない。

亡くなってしまった人でさえ、いい思い出にはなっていないのだろうか。


「相馬さんは、もしかしたら俊太タイプですか」

「エ……」

「姉妹で比べられて、寂しかったとか……」


何気なく言ったセリフだった。

以前、姉や妹などいるようなコメントを聞いた気がするから。


「僕は……」


何かまずいことを話しただろうか。

相馬さんは、完全に動きが止まっている。


「どう……しました?」

「いえ……その通りだと思って」


その通り。

ということは、相馬さんも他の兄弟と比べられて、辛い思いをしたということだろうか。


「比べられたというより、私が何もないから、褒めようもなかったのだと思います。
今考えると」


相馬さんは、勉強も特に出来なかったし、運動も褒められるほど出来なかったと、

幼い頃を振り返った。



でも……



僕は彼女を見ながら、自然とその意見を跳ね返したくなる。


「でも、相馬さんほど、子供たちの悩みをきちんと受け止めて、
聞いてあげられている人は、あの塾にはいませんよ」


ヒステリックになった庄治先生ではないけれど、挫折を知らない人間は、

出来ないという思いを持つ人の気持ちなど、なかなか理解できない。

僕自身、勉強に関してはそういう部分もあるかもしれないが、

流れに乗り切れない人の気持ちは、多少わかる気がする。


「ありがとうございます。気をつかっていただいて」

「そんなことないですよ」


彼女が、少なくとも子供に対してはウソがなく、

一生懸命に関わろうという思いが、伝わっているのだろう。

そこからはまた、食事が進んでいく。

食べ終えて外に出ると、雨が降り出していたため、その日はタクシーを拾った。

後部座席に並んで座り、流れていく景色を見ながら、目的地へ向かう。

彼女の横顔を見ていると、自然とうなじが目に入った。



あの日……



僕が彼女のうなじに口づけたとき、身体は一瞬固くなった。

漏れる声に刺激され、さらに深く身を沈めたことがふと頭に浮かぶ。


「ここを左ですか」

「はい」


あと5分。

あのマンションに到着する。

その瞬間、彼女の携帯が鳴り出した。

僕は相馬さんからそらした目を、携帯に向ける。

相馬さんは着信相手を確認したが、出ることなくボタンを押してしまい、

呼び出し音は、数回で終わりになった。


「よかったの? 出ないで」

「えぇ……」


時間は、夜9時を回る。

彼女にも、夜な夜な語る友人や、何か知らせをもたらす相手くらいいるだろう。



でも、僕の頭は、ある一人の男を想像してしまう。



柿沼が、彼女の部屋に行くのではないかと。


「その信号を右に」

「はい」


このまま順調に走れば、もうすぐ、マンションに着くだろう。

あと5分、あるかないか。



僕の位置は今……



僕は、そばにある彼女の右手を、つかんだ。

相馬さんは、驚くように僕を見る。

今の電話が、あの男からでないのなら、

このまま僕を受け入れるだろうかという思いが膨らみ始め、

その賭け事をしてみたくなる。

もし、このまま、あの部屋に入ることが出来たら、

ホテルではなく、あの部屋で彼女を抱きしめることが出来たら……



ある意味、初めて柿沼に並ぶ部分が出来る。



ここはタクシーの中。言葉でやり取りするわけにはいかない。

握りしめた手を動かし、彼女の指一本ずつを自分の指に絡めていく。

その刺激を、相馬さんは嫌がるでもなく、かといって答えを戻してもこない。

駆け引きは、互いのぬくもりに隠されながら、鼓動だけを速めた。

タクシーは彼女のマンション前に到着し、後ろの扉が開く。


「……ごめんなさい、今日は」


小さな声だった。

それでも僕にはしっかり届くように、迷いのない言い方だった。

僕は小さく頷き、絡めていた手を離す。


「ごめん……おやすみ」

「すみません、おやすみなさい」


彼女をおろした後、扉はパタンを音を立てて閉まる。

申し訳なさそうな顔をした相馬さんが、玄関前に残っていた。

僕は彼女に手を振り、もう割り切っているという顔をする。

タクシーには次の場所を告げていたため、迷いなくマンションの脇の道へ入った。



黒い車……



あの車がまた、ここに止まっている。

スモークガラスのため、中に誰がいるのかわからないけれど、

でも……



あの男が、彼女のところへ来たのだと、その思いしか持てなくなる。



僕の誘いを断り、彼女はあの男の腕に身を任せるのだろうか。



僕に見せていたあの笑顔を、あの男にも見せるのだろうか。



どう処理したらいいのかわからない思いは、部屋につくまで消えることがなかった。




【12-1】

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