12 Advance 【前進】 【12-1】

12 Advance 【前進】

【12-1】


警察騒ぎから10日後、

正式に、アレンは僕の担当に戻ることが決まった。

そうなると、空いていた時間にまた授業が入り、生活のリズムが変わる。


「それじゃあね、柾」

「気をつけて帰れよ」

「OK!」


アレンを教室から出した後、職員室へ戻る。

始まる前には席にいた相馬さんは、もう帰ってしまったのだろう……


「ん?」


職員室の奥には、今までの受験や学生のデータが保管されている資料室がある。

その小さな部屋の灯りがついていたので、何気なくのぞいてみた。


「お疲れ様です」

「あ……」


相馬さんだった。

思いがけないところで姿を見たことが、なんだか嬉しくて。


「何をしているんですか。今日は遅番ではないでしょう」


何をしていても、どうでもよかったが、覗いた理由をとりあえずつけてみた。


「はい。でも、いつもは仕事が色々とあって、なかなかここの整理が出来ていなくて。
秋になると、模擬試験も増えますし、それに……」


相馬さんは、最後のファイルを棚に戻す。


「待っていたくて……」


何をなど、聞くことはしなかった。

僕はそのまま彼女を引き寄せ、首筋に軽く口付ける。

教室長だろうか、人が歩く音がしたため、僕はすぐに体を離し、

1冊のファイルを手に取り、資料室を出た。


「おぉ、宇野先生。お疲れ様です」

「あ、ありがとうございます」


資料室の中に立つ相馬さんに、少し見せてくださいねと声をかけ、

自分の場所へ戻った。同じく授業を終えた他の講師が、終わりの1杯だと、

コーヒーを飲んでいる。


「エ……相馬さん、まだ資料室にいたんですか」

「うん。途中までにしようと思っていたのに、最後まで片付けたくて」

「すみません、全てやってもらって。もう途中で切り上げてしまったものだと」

「いいの、いいの、勝手にしているだけだから」


遅番の藤岡さんが、飲み終えたカップを片付けていく。

相馬さんも、それを手伝おうと、ほんの少し慌てたように、

僕の前を通り過ぎる。

僕は資料を確認したふりをした後、ファイルを閉じ、返却用の棚に戻した。





「この間は、ごめんなさい」


塾を出る時間をずらし、僕たちは2つ先の駅のホームでおちあった。

次の電車が来たら乗り込むつもりで、ベンチに座る。

相馬さんが謝っているのはきっと、タクシーでのことだろう。


「僕の方こそごめん。後からあれは強引だったなと」

「いえ……」


柿沼が来たのではないかという思いが、強引な行動に走らせた。

まだ、あの壁を越えられないのかという思いに、その日、日付が変わるまで、

眠れなかったことは確かだけれど。


「宇野先生。近いうちに、お時間ありますか」

「時間ですか?」

「はい。いつも宇野先生に食事代を払ってもらっていて、申し訳なくて」


彼女との食事代など、今の僕にはたいしたことではない。

『ストレイジ』との契約賃金は、

同じ年のサラリーマンとは基準が違う金額に、設定されているのだから。


「そんなことは気にしなくていいですよ。僕は楽しい時間をもらっているので」

「そう言ってもらえるのは嬉しいのですが、やはり、どうしても気になって。
あの……よかったら、今度うちで食事をしませんか」



うち……



「夕食、私が作りますから」


相馬さんのマンション。

僕はいいのですかと、確認する。

彼女は、小さく頷き、照れくさそうな顔をした。


「えっと……それなら……」


そう、それなら、塾に僕が来ない日。そして、彼女が早番の日。

今週はデータの詰めが控えている。抜けられない。

だとすると、来週。


「来週の月曜日」

「……月曜ですか」

「はい」


相馬さんはわかりましたと頷き、電車の音にベンチから腰をあげる。


「楽しみにしています」


僕の台詞に、しっかりとした口調で、『はい』と答えてくれた。




【12-2】

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