12 Advance 【前進】 【12-2】

【12-2】


『新芽を伸ばす』

何気なく入った書店で見つけた、柿沼の著書。

僕の目の前でLEDに照らされたこの『新芽』たちは、

いったい、何をもたらせてくれるのだろう。

肥料吸収度、光合成の仕組み。



『うちで食事をしませんか』



彼女の住所を知り、初めて車でマンションへ送った日。

あの日、入れ違いに入ったのは、確かに柿沼だった。

まるで彼女が戻る時間を知っていたかのように、あいつはエントランスに消えていった。

彼女の部屋。

今まで、僕は入ることを許されなかった場所だけれど、

あいつと同じ場所にまで、なんとか入り込むことになりそうだ。


「宇野、今日、行かないか」

「はい」


澤野さんの誘いにも、機嫌よく答え、出てくるデータの数字をしっかりと記入する。

そして、その日の仕事を終えた。





「いらっしゃいませ」

「澤野さん、久しぶり」

「おぉ、ミルキーちゃん、俺が来なくて寂しくなかったか?」

「寂しい、寂しい」


澤野さんが連れて行ってくれた場所は、大学生くらいの女性たちが、

素人であることを売りにして、接待をするような店だった。

僕と澤野さんの通された場所には、その『ミルキー』さんがソファーに座ってくる。


「こちらは初めての方?」

「そうそう、初めての方。宇野柾」


かわいらしいピンクの名刺には、

『ミルキー』と絶対に本名ではない名前が記されていた。

僕はそれを受け取り、軽く頭を下げる。


「宇野は『東城大学』の大学院出身なんだぞ」

「エ……じゃぁ、パパ山田を知ってるの?」


『パパ山田』


「澤野さん」

「あはは……『ミルキー』は『城蔭大学』の現役大学生なんだよ」

「あ、もう、正体をばらしてしまうのなら、『ミルキー』じゃなくていいですよ。
すみません、青橋睦美と言います」


『ミルキー』というこの店のホステスは、『城蔭大学』に通う、

現役の女子大生だった。この店には同じように大学に通うホステスが、

数名働いているという。


「田舎から出てきて、一人暮らしでしょ。親には学費だけでも負担なのに、
生活費までくださいと言えなくて。だから、正々堂々と水商売なのです」

「正々堂々か、いいねぇ、それ」

「そうですよ。だって、やましいところないですもん。お店にも書いてあるでしょ。
『素人大学生、生活のために水商売』って」

「あはは……お前おもしろいな。さすがにそこまでは書いてないぞ」

「あれ? そうだっけ?」


青橋さんは、笑顔を見せ、僕と澤野さんに手際よくお酒を作り始めた。

それにしても、山田教授のことを『パパ山田』とは、驚いた。


「教授のことを、そんなふうに呼んでいるの?」

「はい。山田教授自身が、俺は君たちと色々とわかりあいたいからって、
許しているんです」


よく考えたら、あの山田らしい発想だ。

僕らが学生の頃も、女子にはやたらに甘かった。

しかし、さすがに呼び方だけは崩させてはいなかったけれど。

僕達の学生時代とは、もう色々と変わってしまったと言うことだろうか。


「宇野」

「はい」

「今日誘ったのは、実は、富田のことなんだけどさ」


富田さん。『中央新聞社 社会部』の記者。

澤野さんとは、昔からの知り合いだと聞いている。

僕も何度か飲みに行き、それこそ柿沼や山田のことを、色々と聞いた。


「はい、富田さんが何か」

「あいつの取材に、協力してやってくれないかな」


澤野さんはそういうと、頼むと頭を下げた。

僕はそんなことはしないでくださいと、肩を叩く。

この話しは、隣でマドラーを回している青橋さんに聞かせていて、いいのだろうか。


「澤野さん」

「私なら平気ですよ。富田さんも知っていますし、私自身、取材に協力しましたから」


青橋さんは、富田さんの探している出来事の取材に、協力したのだと言う。

『ハイボール』が僕達の前に、置かれた。


「山田のことも裏は取った。でも、宇野の研究がどういうもので、
どこに動いているのか、それを探るためには、宇野本人に事実を聞かないと、
証拠にならない。あいつはこれが大きな真実を生むことだと信じて、
必死に取材を続けているけれど、近頃、社会部の中では浮き始めているらしくて」


僕の研究。

もう昔のことだ。今さらそれを明らかにして、何が変わるというのだろう。


「富田が探っていることを、おそらく柿沼教授は気付いている。
あいつが邪魔をされるのも時間の問題だ。そうなったら、ガードが固くて、
どこも動かせない。だからその前に、事実を突き詰めたいって」


柿沼の事実。

それはもう、裏切りをした山田が、あれこれ語っているだろう。

僕が、細かいことを付け足しても、証拠も何もない。


「お前、当時、柿沼から取引を言い出されなかったか」

「取引……ですか」

「うん」


『明林製薬』

そう、あの時、柿沼は僕に就職の好条件を出してきた。

なぜ、自分の取り巻きに振らないのかと、当時も疑問だった。




【12-3】

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