12 Advance 【前進】 【12-6】

【12-6】


いつもなら込み合う道路も、日がよかったのかあまり込むことなく、

予想よりも少し早い時間にマンション前へついた。

予定の時間になるまで待つべきかとも思ったが、あまり広い通りではないので、

逆に迷惑がかかるかもしれない。

僕は携帯を開き、相馬さんの番号を回した。



『もしもし』

「もしもし、宇野です。すみません、もうマンション前についてしまって」

『あ……はい。すぐに行きます』


そういうと電話は切れ、しばらくすると、エントランスから相馬さんが姿を見せた。

僕は窓を開けて、顔を少し出す。


「ごめん、早かったね」

「いえ、いいです。あの……ご案内しますので、乗ってもいいですか」


マンションの地下には、客が来たとき用の駐車場があるらしく、

相馬さんは、そこに車を入れたほうがいいと、助手席の扉を開ける。

僕は置いてあった土産物の袋を一度取り、助手席に座った彼女の膝に乗せた。


「気に入ってもらえるのかわからないけれど、紅茶が入っているんだ」

「紅茶?」

「うん……」

「あ……いい匂い。ありがとうございます」


嬉しそうな彼女の顔を確かめた後、僕はあらためてエンジンをかけて、

指示通り地下の駐車場へ入る。マンションの地下には、

住人用の駐車場が、いくつか整備されていた。


「へぇ……便利だね。こういう場所を確保できているのは」

「そうなんです。マンションの人たち、みんなの共有なので、
日付を決めて、予約しないと、使えないのですけど。
でも、空いていたらその日でも大丈夫なので。平日はほぼ問題なく使えるんです」


エレベーターに乗る前に、このマンションには駐車場だけでなく、

住居の人たちが、同じように予約して使える部屋もあるのだと、教えてもらう。


「部屋?」

「はい。3階にあります。急なお客様だったりすると、片付けも大変だから。
みなさん、ここを借りています」


親戚が多く来たとか、子供の親同士が気兼ねなく話をするとか、

住人の使い方はそれぞれだと言う。


「そういう設備は、分譲ならではです」


『分譲』。やはりそうだった。

流れに乗せるように、質問をすれば警戒心なく答えてくれるだろうか。


「ご家族と、ここに住んでいたのですか」


お母さんが亡くなる前、相馬さんは『静岡』に住んでいたと聞いている。

彼女は、どう説明するだろう。


「以前、もっと小さい頃に、住んでいたことはありました。
でも、色々とあって、『静岡』にしばらくいたので」



幼い頃。



この話が本当なら、このマンションは柿沼が彼女に与えたものではないことになる。


「それでは、思い出が色々と詰まっている場所なのですね。
ご両親とかお姉さんとか……」


相馬さんは、『はい』とも『いいえ』とも答えてはくれずに、

ただ、笑みを浮かべるだけだった。





「どうぞ」

「おじゃまします」


初めて入る彼女の部屋。

ここに柿沼も通うのかと思うと、そばにいるわけでもないのに、緊張する。

リビングダイニングがあり、あとは2部屋だろうか。


「奥に座ってください」

「あ……うん」


あまりキョロキョロするのも、おかしな行動だと思われてしまう。

リビングに入っていくと、すでに夕食の支度が整いつつあった。


「何か、手伝おうか」

「いえ、大丈夫です。今日は私がご招待したのですから。宇野先生はお客様です」


宇野先生……


「あのさ、相馬さん」

「はい」

「こうして部屋に来させてもらっているのだから、宇野先生っていうのは……
どうかな」


呼び方なんてどうでもいい気はしたが、柿沼に知られているかと思うと、

彼女の心の距離が、気になった。


「あ……すみません」

「いえ……」

「柾さん」

「はい」


彩夏の呼ぶ『柾』とは、響きが違うけれど、相馬さんの優しい雰囲気が、

ふわりと言葉に乗る気がした。自分の名前が『柾』なのだと、あらためて思う。


「宇野先生」

「は?」

「あ……すみません」


相馬さんは、塾の学生の話をしようとしたらしく、また宇野先生に戻ってしまう。

今までずっと呼んできたのだから、急には無理だった。

僕は、呼びやすいほうでいいですよと、『宇野先生』を受け入れる。


「あの……少しお聞きしてもいいですか」

「はい、僕がわかることであればなんでも」


相馬さんは、料理を運びながら、ありがとうございますと頭を下げてくれた。




【13-1】

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