13 Heart 【核心】 【13-2】

【13-2】


「そうですか」

「はい。僕の尊敬している岩佐教授のライバル。僕にとってはそういうイメージの方です。
岩佐教授は亡くなってしまったので、もう、競い合うことは出来ませんが、
研究者として、いえ、大学の教授として、若い学生たちの先頭に立つ立場として……」



『宇野……大丈夫だ、任せておけ』



「僕は、柿沼教授より、岩佐教授の方が、全てにおいて上だと思っています」



相馬さんの表情は、驚きを隠せないものだった。

どういう意図でふってきたのか、それはわからない。

それでもいい。



「すみません、質問の答えではないですね、これ」



来月、柿沼の講演会で、あいつが何を言うのかわからない。

どんな形になるのかはわからないが、

僕らの『ゲーム』の最後が、近付いていることだけは確かだろう。

それだとしたら余計に、ここでウソをつきたくない。




相馬さんとの関係の中に、ウソだけを残したくない……




「いえ……」



僕は美味しいおかずを食べ進め、どんどん箸を動かしていく。

そこからは、料理に使っていたピーマンの話題になり、

僕はまた、おもしろくもない研究の話を、気付くと進めていた。





食事をした後、僕達は当たり前のように抱き合った。

唇から首筋にキスを落としながら、女性の柔らかな部分に触れていく。

彼女の気持ちを高めているつもりが、僕自身が熱くなっていき、

まどろっこしい時間に、呼吸をあわせていることが辛くなる。

少し強引に彼女の脚を開き、僕はもっと深くて強い快感を求めた。

横たわる彼女の体をしっかりと押さえつけ、僕は……



この場所で、今、君を支配しているのだと……思い続ける。



耐え切れずに堕ちていこうとする声を、唇で塞ぎ、何もかもを逃がさないように、

自分のものにしていく瞬間は、獲物を捕らえた野獣のようだった。



彼女の目元に光る雫を、指先で優しく払う。



「……ごめん」



互いに顔を見合わせたとき、僕の口から出てきたのは、その言葉だった。

相馬さんは首を振りながら、両手で僕の頬に触れる。


「はぁ……」


荒い息の向こう側に見えた彼女の顔は、自己満足なのだろうか、

とても幸せそうに見えて……



『宇野、君に話がある』



柿沼は、講演会の後、僕に何をつきつけるだろう。

相馬郁美とは、二度と会うなと言われる可能性は高い。

それを無視して、彼女との時間を続けたとしても、今度は邪魔が入るはずだ。

その前に、今、彼女を揺さぶった方がいいだろうか。

柿沼をどう思うのかと聞いてきた日。

『信頼』という問いに、僕は首を横に振った。



『君は、あいつの何を知っているのか……教えて欲しい』



今、互いに素肌を見せているここで話を切り出したら、

彼女は僕に語るだろうか。



いや……しかし……

今、ここで彼女を問い詰め、もし、まだ気持ちが定まらなかったら、

最初の頃のように、しっかりとシャッターを閉じてしまうかもしれない。

結局何も聞き出せないまま、離れてしまうことになるかもしれない。


「どうしたの?」


長い間、考え事をするように下を見ていた僕に、彼女はそう問いかけた。

僕は、なんでもないよと言いながら、顔にかかった彼女の髪をどけてやる。



聞くのなら……言うのなら今だ。

僕は彼女を上から見ていた形から、一緒に横になる。

彼女の瞳の中に映るのは、僕の表なのか裏なのか……



「何があるの?」

「エ……」

「僕の思い込みかもしれない。でも、君と話をしていると、
何か探られているような気がしてならないんだ」


そう、僕のことを探っているような話の仕方が、前から気になっていた。



「僕は、君にとって、まだ一番信頼できる相手には、なっていないのかな」



金と地位のある柿沼に、満足しているのなら、

僕とのこの時間はありえないのではないか。

今までは、僕を探るつもりで近付いているのかと思っていたけれど、

彼女の目を、言葉を聞いていると、もっと深いものがあるような気がしてしまう。



あいつに……踏み込まれる前に。

僕は、彼女を知り尽くしたい……



「郁美……」



僕は……君の事を……



「もう少し……待って」


『もう少し……』

たったこれだけの言葉だけれど、初めて彼女と心が通じた気がした。

柿沼の何を知っているのか、どういういきさつで今があるのか、

何もかもを聞きだしたいけれど……


「わかった……」


辛そうな彼女の瞳を見ていたら、何も言えなくなった。

僕はあらためて体を引き寄せると、しっかりと唇を重ねる。



僕は『ゲーム』をしているはずだったのに……

柿沼を怒らせて、それで自己満足に浸るつもりだったのに。

今、目の前にいる人の思いをただ受け止めていたくて、

悲しみの声を聞くよりも、また求めて欲しくて……


僕は彼女へキスを落としながら、ただ抱きしめ続けた。




【13-3】

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