13 Heart 【核心】 【13-3】

【13-3】


彼女の部屋から戻ってくると、時刻は午前1時になっていた。

食事をし、そして重なり合った時間は、本当に充実したものだった。

彼女の涙、そして、遠慮がちに笑った顔。

あの部屋で抱きしめあったという、満足感もあり、

しばらく体を起こすことが出来ないくらいの余韻が、僕の心を揺さぶった。



『もう少し……』



相馬郁美という女性は、柿沼に愛を売っていると思っていた。

おとなしそうな顔をして、実は権力を好み、満足感を得ているのだとそう思っていた。

しかし、何度も彼女と会ううちに、いや、彼女を抱きしめているうちに、

今までの推理は、全て間違っていたのではないかという気になった。



彼女は僕に、救いを求めているのではないか。



「ふぅ……」


スーツという鎧を全て脱ぎ捨て、ただ息を吐く。

ソファーに体を横たえ、目を閉じるだけで、耳元にまた蘇る。



あの人の、息づかい。



『僕にとっては、尊敬するところのない方でした』



僕のあの言葉を聞き、彼女はどういう道を選ぶのだろう。

僕は、彼女から何かを聞き出せたとしたら、どうすればいいだろう。



『もう少し……待って』



『ゲーム』の終わり方が、見えなくなる。



僕の頭と身体が、別々の思いを持ち、主張しているようだった。





彼女の態度は、その後も変わらずに、僕たちは何度かデートを重ねた。

食事をしてホテルに入ることもあったが、彼女の部屋へ向かうこともあり、

ごく普通のカップルが過ごす日常らしき時間が、確かに流れていた。

遠慮がちだった言葉も、親しげなものに変わり、

何を抱えていたのか、どう動こうとしていたのか、わからないくらい……

当たり前の日々が重なっていた。





しかし、カレンダーが11月も後半になった頃、

穏やかだった日々に、小さな変化が生まれ始める。


「それでは、今日はここまで」

「はい。ありがとうございました」


本田君の授業を終えて、職員室へ戻った。

今朝、姿のなかった相馬さんは、おそらく今日、遅番なのだろう。

そう思い席を見たが、塾に現れている気配はない。


「宇野先生、お茶、入れましょうか」

「あ……ありがとうございます」


それから午後になり、授業を重ねていくが、

結局相馬さんが姿を見せることはなく……


「よし、今日はここまで」

「はぁ~い」


アレンの授業が終了し、その日のスケジュールは全て完了した。


「ねぇ、柾。相馬さんどうしたの?」

「どうしたのってどういうことだ」

「だって下にいなかったよ」


アレンは教科書を片付けながら、ここのところ急に寒くなったので、

風邪でもひいたのだろうかと心配し始める。


「そうだな、急に寒くなったから、そういうこともあるかもしれないな」

「ねぇ、柾。大丈夫なのって電話してあげなよ、喜ぶよ、きっと」


アレンは僕のことを肘でつつきながら、そうからかった。

個人的な付き合いのことなど、彼女が話しているとは、思えないのだが。


「どうやって電話をするんだよ。個人的な連絡先など、知らないぞ」


知っているけれど、もちろん知らないと答えてやった。

アレンは本当に知らないの? と、聞き返す。


「知らないよ。仕事の仲間だけれど、そういう個人情報は、聞いたりしない」


僕も参考書を閉じ、使ったものは全て棚に戻していく。


「二人は結構いい雰囲気だと、ちょっと思っていたのにな」


恋に焦がれる女子高生の戯言。

まともに相手をする方がおかしいはず。



「相馬さんって、ひとりぼっちなんだよ……」



ひとりぼっち……



アレンに言われると、その言葉以上の意味を持つ気がした。




【13-4】

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