13 Heart 【核心】 【13-6】

【13-6】


『未承認の薬と手術の記録』



だから数年前から彼女の存在を知った柿沼は、世間から隠すようにし、

『振り返りたくない過去』という爆弾を先に見つけ、

処理してしまおうと、考えているのかもしれない。



あいつのことだ。

亡くなった岩佐教授に、罪を全てなすりつけることくらい、簡単なことだろう。

『カルテ』さえ表に出なければ、どんなに色々言われたとしても、

決定的な証拠はないのだから。



「宇野さん」

「……はい」

「これがあなたのノートだと、何か証拠になるものは持っている?」


証拠……

大学院に通っていたとき、柿沼の誘いを断った。

それからすぐに、僕の全てが消えていて……


「証拠はありません。柿沼の誘いを断って、すぐに全てを取りあげられました。
僕自身、学生だったこともありますし、まさかそこまでと考えてましたから。
ノート、データのファイル。とにかく紙切れ1枚まで、無くなっていました」

「誰か、それを証明してくれる人はいる?」

「証明……ですか」

「そう、これが宇野さんのもので、柿沼教授が取り上げたということを……」


山田を始めとした他の教授や講師、いや、それだけではない。

先輩や同級生だって、本来なら気付いていた。


「気付いていた人たちも、全員、何も言いませんでしたから。
今更、それを証明してくれというのは……」

「……そう」


もう大学院を卒業して、8年以上が経過している。

人の記憶も、それほど鮮明なものは残っていないだろう。


「そうよね……だとすると、こっちの線は難しいな」


僕の研究資料を、売り渡したという過去の話し。

確かに、今、それを立証するのは難しいだろう。

柿沼が、そんな怪しいデータを、残しているとは思えない。


「あぁ……何か近付く方法、ないかな」



『相馬郁美』。



彼女の名前を言い、柿沼が必死に守っている女性だと言えば、

富田さんは、すぐに調べてくれるかもしれない。



でも……



『もう少し……待って』



彼女は、僕に何かを話そうとしているのだろう。だから、あんな発言になった。

だとすると、僕が勝手に事実を知ろうとする権利があるのだろうか。

もし、本当に彼女が遺族なのだとしたら、柿沼からそれなりの話しは聞いているだろう。



富田さんからの情報だけで、流れを決めていいとは、まだ思えない。



その日は、核心部分に迫ることはなく、僕達は2時間後に店を出た。





相馬さんと連絡が取れたのは、それからさらに5日後だった。

どうして急に長い休みを取ったのか、理由が聞きたいと思い、

ゆっくり話ができるように、僕は車で彼女を迎えに行った。

もちろん、塾のある駅ではなく、2つ先にある駅。

何度か待ち合わせた場所につき、時計を確認する。

電車が到着したのだろう。階段を上がってくる人が増え始め、

その波が終わる頃、相馬さんが姿を見せた。


「相馬さん」

「あ……」


体調でも崩したのかと思っていたが、彼女は特に痩せたわけでもなく、

いつものように控えめな笑顔を僕に見せてくれる。


「すみません、お待たせして」

「いや、いいんだ。急がせたんじゃないかな」

「いえ……」


とりあえず助手席に座ってもらい、車を走らせた。

時間はあるのだから、焦って聞かなくてもいいことなのに、

僕はすぐ、口を開いてしまう。


「何していたの? 結構、長いお休みを取って……」


いつもなら、学生の話など、たわいもないことから始まる会話が、

一瞬で緊張感を持つ。


「静岡に戻っていました。以前住んでいた場所の近くに出かけて。
友達に会ったり、知り合いの方に会ったり……」


それが数日間の休みにつながるのかと、さらに疑問をぶつけるつもりだったが、

それは僕の口から出て行かなくなる。


「年が明けると受験シーズンじゃないですか。そうなると休みも取れませんし、
今のうちにと思って出かけたら、懐かしい人たちにたくさん会えて、
なんだか楽しくなって……」

「へぇ……」

「このまま、ここにいようかな……なんて」


話しの流れなのだろう。

それはわかっているのに、相馬さんの一言が、とても重く感じられた。




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