14 Shout 【叫び】 【14-2】

【14-2】


相馬郁美と始めたのは、恋愛ではなく『ゲーム』のはずだった。

そう割り切っているのは僕で、彼女は普通に僕を見て、僕を知り、

僕を頼ってくる関係になると思っていたのに。



少しずつ埋めてきた距離と日々に、振り回されているのは……

彼女ではなく、僕なのだろうか。



マンションまで送り届けるつもりだった。

しかし、相馬さんは駅近くの不動産屋へ行くと言い、車を下りてしまった。

分譲マンション。確かに女性が一人で暮らすのだとしたら広すぎるだろう。

でも、それならばもっと前から売ることも出来たはず。



なぜ急に、ここのところ、彼女は動いているのだろう。



『もう少し……待って』



富田さんが話してくれた過去の出来事と、彼女。

そして柿沼の動き。

探りたい部分はあるものの、今の僕にはそれを完全に結びつけることが出来ず、

ただ、ひとりになった車を、自分の部屋へ走らせた。





12月15日。

『東城大学 柿沼栄三郎教授』

そう、柿沼の講演会当日がやってきた。

あいつが僕に何を言ってくるのか……

それがわかるだろう。





会場は、『東城大学』の記念ホール。

さすがにマスコミでも取り上げられる教授が、

2年ぶりに大学で講演会をするということで、記者らしき人たちも多い。

僕は招待状を持つ客が向かう受付へ進み、名前を名乗った。


「宇野柾です」

「宇野様……」


受け付けの女性はすぐに僕の名前に反応すると、

奥から封筒を出してきた。柿沼教授からですのでと一言付け加えられる。


「ありがとうございます」


僕はそれを受け取ると、人が動く場所から少し離れた位置に向かい、封筒を開けた。



『講演会終了後、私の研究室へ来て欲しい』



柿沼の研究室。

大学院に入り、一度だけ呼び出されたことがある部屋。

僕の研究を手放す代わりに、『明林製薬』への就職を世話すると、そう言われた。

岩佐教授のためにもやり遂げたいと、提案を拒絶してからまもなく、

僕は……



全てをあいつに奪われた。



その部屋にまた、入ることになるとは。





自慢が6割、そして、『若い人たちに期待する』などという、

思ってもいない話が3割。

そして、教授として君臨してきたという自信の言葉が1割という、

僕にとっては、どうでもいい講演会は、予定よりも15分オーバーで終了した。


人の流れが途切れた頃、会場を出る。

思い出の場所だとわかっている足は、噴水のある中庭へ向かった。

天然芝のため、今はすっかり枯れてしまっているが、季節がいい頃になると、

青々とした緑色が、勉強に疲れた目を癒してくれる。

よくこの場所で、尚吾たちと論文の出来を披露しあった。

図書室や、実験室よりも、青空の下で話すのが楽しくて、

コンビニで買ってきたおにぎりをほおばりながら、赤ペンであれこれ書きなぐった。

どうしてもまとまらなくて、先輩のものをどこかから調達し、

うまくコピーしようとした箇所をねじ込んだつもりが、岩佐教授にばれてしまい、

尚吾はあやうくこの噴水の中に、正座しろと言われるところだった。



『中に正座ですか? でも水が』

『うるさい。体ごと冷やして来い』



その日に限って、調子が悪く、水が出なかったため、

岩佐教授はバツとしてはつまらないと笑い、その日一日、

尚吾は教授の『パシリ』にされた。



『ほら、植松、肩を揉め……そうだな、同時に今日の新聞のトップ記事を読んでみろ』



今更何を言っても、何を企んでも、どうしようもないことなのに、

この場所で、人々から拍手喝さいを浴びているのが、

なぜ岩佐教授ではないのかと、心が重くなる。



『相馬郁美』



柿沼がもし、彼女にこれ以上近付くなと言っても、僕はそれを跳ね除けるつもりだ。

彼女も、今をいいとは思っていない。

だからこそ、僕を認め、僕を受け入れた。



『もう少し……待って』



何を言われても、負けはしない。

僕は自分の始めた『ゲーム』の終わりを、自分で決めてみせる。

今日は動いていない噴水の、溜まっている水に手で触れると、

予想以上に冷たく、僕はすぐに手を引いた。




【14-3】

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