14 Shout 【叫び】 【14-3】

【14-3】


『柿沼研究室』


場所は当時と変わらない。

しかし……


「失礼します」


中はすっかり綺麗になっていた。

僕らが学生の頃は、もう少し研究者らしい部屋だった気がする。

沈み込みそうな深いソファーに、装飾など無駄だと思えるくらい豪華なテーブル。

ここはどこかの企業の社長室だと、錯覚しそうなくらいだった。


「柿沼教授はすぐにお見えになりますので、そのままお待ちください」

「はい」


秘書らしい女性が退室し、僕はひとりになった。



昔は壁にかかっていた時計も、今はデジタルだからなのか、音が全くしない。

静かな部屋にしばらく座っていると、カツカツと足音が聞こえだし、

1分も経たないうちに、扉が開かれた。

僕は立ち上がり、入ってきた人に対して、とりあえず頭を下げる。

そう、ただ下げるだけ。


「待たせて申し訳なかったな、君も忙しいだろうに」

「いえ、教授ほどではありません」


互いに挨拶だと見せかけ、嫌みをぶつけ合う。

気に入らないものに対する接し方は、昔と全く変わらない。


「忙しいには忙しいんだよ。色々とうるさいハエが、飛び回っていてね」



『ハエ』



それは僕のことだろうか。

それとも、富田さんのように真実を見抜こうとする人のことだろうか。


「ハエが飛び回るということは、
何か臭いのするものが、先生のお近くにあるのではないですか」


『臭い』

そう、つまりスキャンダル。

柿沼は僕の顔をチラリと見た後、生意気なことを言うやつだという目を向ける。

もう、何を言われても怖くなどない。

僕は、あの頃の学生ではないし、柿沼の顔色を伺わないとならないような、

研究者でもないのだから。


「臭いものか。いやいや、こうして世の中のためにと思い動いても、
どうも日本は出る杭は打たれそうになるからな。難しいものだ」


柿沼はデスクの引き出しから封筒を取り出すと、それを手に持ち、

僕と向かい合うように座った。


「互いに忙しいことは間違いない。無駄な話しはやめておこう。
核の部分だけ、話しをさせてもらう」

「はい」


そう、それで十分だ。

繕った表情など、長くは続かない。


「宇野、君の目的を聞きたい」

「……目的」


柿沼は、そう言いながら、封筒からパンフレットを取り出した。

それは、僕が尚吾に見せてもらった『SOU進学教室』のパンフレット。


「なぜ急に、ここへ君が向かったのかと聞いている」


なぜなのか……

それは、あなたが大切にしている女性が、ここにいると知ったから。

そう言いたくなるのをグッと押さえ、僕は『パンフレット』を軽く見る。


「どうしてと言うのはおかしいですね。僕は就職のひとつだと思い……」

「ウソをつくな」


ウソ……


「なぜウソだと言うのですか」

「君がここで稼ぐ必要など、全くないからだ」


柿沼は、僕が今『ストレイジ』と個人契約をしていることで、

同じ年のサラリーマンとは比べられない収入があるだろうと指摘する。

さらに、選んだ『青原南教室』が、

自宅と『ストレイジ』と接点がまるでない場所にあること、

それをしっかり付け足してくる。

僕は最後まで聞き続けた後、パンフレットを元に戻した。


「確かにおっしゃる通り、単純な距離を考えたら、別の教室がありました。
しかし、どうせ違う系統の仕事をするのなら、思い切り環境も変えてみたいと、
自分自身、冒険をしたつもりでしたが」


どこを選び入っていくのかは、僕の勝手。

柿沼はそうなのかと頷きながら、最後にふっと息を漏らす。


「冒険ねぇ……」


柿沼は、苦笑しながらそうつぶやいた。


「私への、嫌がらせのつもりか」



嫌がらせ……



「まどろっこしいことを言わなくていい。お前の目的は、相馬郁美だろう」



社会的地位など関係なく、年齢もここでは関係なく、

ただ男同士として、互いに向かい合っている。



「教授こそ、どういう意味ですか。相馬郁美さんは確かに事務員として、
塾にいらっしゃいますよ。僕も素敵な人なので、個人的に……」



柿沼は、封筒から数枚の写真を取り出すと、僕の目の前に放り投げた。




【14-4】

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