14 Shout 【叫び】 【14-5】

【14-5】


僕は一度息を吐き、ソファーから立ち上がる。

やはり、この名前には何かが隠されている。


「教授、あなたがなぜ、僕の研究を自分のものにしたかったのか、
なぜ、『明林製薬』に入社させようとしたのか……やっとわかりましたよ」



ウソ……



わかったことなど、何もない。

『相馬智美』という女性の名前を知り、ただ、相馬郁美との接点があるのではと、

勝手に考えただけだ。もっともらしきことを言い、僕は扉に向かう。


「宇野、お前……」

「はい、そうです。僕は『相馬智美』さんのことを知り、彼女に近づいた。
あと一歩です。あなたが相馬さんを自分の方へ引き寄せようとも、僕は……」


自分でも何を言っているのか、わからないところがあった。

『相馬智美』と『相馬郁美』にどのような関係があるのかも、正直わからないのに。

勝手に写真を撮られ、勝手に事実を明らかにされたことへの怒りを、

どうぶつけたらいいのかわからずに、ただ、何かがありそうな素振りだけを続けていく。


「宇野……」

「僕は、彼女と話をして、真実を明らかにします」


こうなったら、何がなんでも途切れ途切れになっている線を、つなげてみたい。

そのためなら、どんなことでも……


「柿沼教授。あなたのおっしゃる通り、
僕の今していることは、誇れるものではありません。しかし、僕はあの日、
あなたの誘いを断り、全てを無くしました」


ただまっすぐに、ただ未来に夢を見ていた日々は、全て消えてしまった。


「気に入らないと言うのなら、どんな邪魔でもしてくださって結構です。
どうせ、夢中に何かに取り組んでいることもないですし……」


研究者としての自分を失ってからは、息をして、息を吐くことが、

生きているしるしだった。ただ、欲望に身を任せ、時を積み重ねている。


「それでも……これからどんな人生を歩もうとも……」


そう、あなたの機嫌をさらに損ね、色々なことを邪魔されたとしても……


「僕の恩師は、岩佐幸志だけです」


『岩佐教授』

これで終わりです。

僕は結局、この怪物に、何一つ出来ませんでした。

悔しさの中で、小さな石を投げつけ、それで終わりです。



『惨め』



尚吾……お前の言うとおりだった。

何も罪がない人を傷つけ、くだらない争いに巻き込んだ。

人に傷つけられたことを長い間、恨みに思ってきたのに、

僕がしていることも、たいして変わらない。



『宇野先生』



少なくとも、正直に人生を歩いている人を、弄んでしまった。

アレンや俊太に努力をしろなど偉そうに言う権利など、僕にあるのだろうか。


「宇野、待て!」


呼び止められたことだけはわかったが、振り返るつもりもなかった。

二度とここには来ないと歩いた8年前。



また同じ事を繰り返した。



外の風は冷たく強く、僕に怒りをぶつけるようで、

窓ガラスはガタガタと落ち着かない動きを続けた。





『相馬郁美』


柿沼教授によって、僕の日々が先に話されてしまった。

あいつのことだ、どれだけ僕が汚い人間なのかと、あることなど関係なく、

ないことも膨らませて話しているだろう。



『自己保身』



そう、それは柿沼のもっとも得意とする分野だった。

僕が彼女に近づいたことを知り、

悔しそうに唇をかみしめるような男ではないことくらい、

わかりきっていたことなのに。


僕が、柿沼への恨みを晴らすために彼女へ近づいたことも、

長い間、時を重ねている人が別にいることも……



彼女は知ってしまった。



『もう少し……待って』



あの日、切なそうにそう言葉を押し出した彼女の思い。

僕は、それを知ることなく、彼女と別れることになるのだろう。

柿沼の用意した題材の中に、僕も彼女もしっかりと浸けられた。



『マンション売ることに……』



彼女からの連絡がなくなったのは、部屋を出て行こうとするのは、

これが怒りと、答えと言うことなのだろう。



空しさが待っていることは、最初からわかっていたつもりだったが……



わかっていても、その障害物を越えられないほど、打ちのめされる。



『ゲーム』。

そう、僕の『ゲーム』は、情けない形で終わりを迎えたけれど、

だからといって、ただ逃げていくのは、申し訳ない。



『一度、僕の部屋で、話しませんか』



社会人になり、数名の女性と付き合いをしてきたが、

今まで、一人も部屋へ入れたことはない。

ある程度の時間だけを共有したかったので、全てを見せる必要も、ないと考えていた。

それでも、彼女だけはそこまでするべきではないかと、初めて思えてくる。

もう会いたくありませんなど、冷たい返事が戻ってくるかもしれないと、

考えながら待っていた返信は……



『伺っていいのですか?』



という、普段どおりの彼女らしい返事だった。




【14-6】

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