15 Mirror 【ミラー】 【15-1】

15 Mirror 【ミラー】

【15-1】


彼女が来るまでの時間、何をして過ごそうか。



『相馬郁美です』



初めて塾で彼女を見たとき、柿沼の愛人だと思っていたから、

やけにその姿が地味に感じ、

むしろ、少し時代に取り残されているのではないかというくらい、違和感を覚えた。

しかし、それは彼女の、いつも一歩下がった場所でものを見るという性格に、

ピッタリあっていたものなのだと、今更ながら痛感する。


進学塾の受け付けという仕事柄、対する人は色々だ。

出入りする業者も多ければ、子供たちの父兄もいる。

素敵だと思われるほどのおしゃれでは、

逆に親たちからすれば、派手だと思われることもあるだろう。


強い香りをさせながら、自己アピールなどすることはないが、

ひっそりとその場に咲き、根が強く簡単には枯れない野の花のように、

いなければとても寂しく思える人は、そういない気がする。



そこにいてくれるということが、当たり前に笑っていることが、

彼女の……



インターフォンが鳴り、顔を上げる。

僕はすぐに相手の声を聴いた。


『すみません、相馬です』

「はい」


オートロックを解除し、彼女が中に入ってくるのを確認する。

少し止まっていた時間を動かし、僕はコーヒーサーバーのスイッチを入れた。

音がしなかった機械から、少しずつお湯の沸く音が聞こえ始めた頃、

あらためて玄関のインターフォンが鳴った。


「はい」


僕が扉を開くと、そこに立っていたのは、相馬さんだった。

いつも塾で見るような、控えめな姿。


「こんにちは」

「こんにちは。どうぞ」

「はい」


彼女は靴を脱ぎ、それを揃えると、リビングへ入ってきた。

入り口付近に立ち止まり、少し視線を動かしている。


「どうぞ、座って」

「はい」


今までなら、『恋人』気分で受け入れることが出来たのに、

今日はそういうわけにはいかない。こちらの言い方も、向こうの返し方も、

どこかぎこちなかった。


「広いですね」

「……あぁ、そうですね」


分譲マンションという彼女の部屋とは違う、1LDKの賃貸。

リビングは18畳あるので、広く感じられるだろう。


「生活のほとんどがこの場所なので、なんとなく広いところを探しました」


大学時代、狭いアパートで暮らしていたという反動だろうか、

お金が入るようになってからは、どうしても広さで部屋を選んでしまう。


「コーヒーでいいですか」

「あ……はい」


相馬さんは、持ってきた紙袋を、テーブルの上に置いた。

甘い匂いが、鼻に届く。


「そうです。今日はワッフルを焼いてきました。
コーヒーを入れていただけるのでしたら、一緒に食べませんか」


相馬さんは、並べるのでお皿を出して欲しいと言い、僕は食器戸棚の中から、

少し大きめのお皿を出す。


「ごめんなさい。自炊を全くしないので、皿の数も……」

「いえ、乗せられたらそれで大丈夫です。私、ペーパーシートも入れてきましたから」


お皿代わりになると、彼女は丁寧に紙を折り、それぞれの前においてくれた。

その頃にはコーヒーが完成し、テーブルの上に両方が並ぶ。


「お料理、得意なんですね」

「……私、一人でゴチャゴチャと何かをしているのが、好きなんです。
得意というより、他にやることがないというか」

「いえ……」


柿沼への恨みがなければ、彼女と出会うことはなかっただろう。

でも、もしも、こんなふうに最初から出会っていたら、

僕は……





向かいあうように座り、僕は彼女の方を見た。





この部屋に越してきたのは、今から6年くらい前のこと。

僕は、初めて女性を部屋に入れた。

相馬郁美さんに対しては、今までの人とは違う感情があるからだけれど、

まずは、柿沼から入れられた情報に対し、それを謝らなければ。


「あの……」

「宇野先生。今日はこれを……」


僕が話をしようとしたのもわかっていて、彼女は言葉をかぶせてきた。


「これを、どうしても渡したくて」


先に話そうとしている彼女の気持ちに、僕はタイミングを逃し、

とりあえず耳を傾ける。


「まずは、中身を見てください」


僕はわかりましたと答え、封筒を開き、軽く中を見た。

一瞬見えた紙の持っている意味に、思わず相馬さんの表情を確かめる。


「これ……」

「はい。宇野先生には、これが何か、おわかりになりますよね?」


これがただの紙ではないことくらい、僕にもわかった。

しかも……



『相馬智美』という名前が、すぐに目に入ったから。




【15-2】

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