15 Mirror 【ミラー】 【15-2】

【15-2】


「やはり、宇野先生はご存知だったのですね」


相馬さんはそういうと、僕の持った封筒から、全ての用紙を出していく。

何やら専門用語が書かれている紙が、数枚、テーブルに並べられた。


「あの……」


あまりの出来事に、つい聞き逃してしまったが、

相馬さんは、僕が何を知っていると思っているのだろう。


「あの、相馬さん」

「これは、姉である『相馬智美』の手術データと、診察のカルテです。
当時、日本では未承認だった薬を利用した治療で、
まだ、表には出せないものだと判断され、うちに戻っていました」



姉……



やはり『相馬智美』さんは、相馬さんの姉だった。



「お姉さん……」

「はい。でも、姉とはいえ、私たちは双子です」

「双子?」

「はい」


カルテに書き込まれた誕生日を見て、確かに納得できた。

当時彼女は17歳。現在の年数に戻すと、相馬さんの年齢と一致する。


「あの頃の業界勢力図と、今の勢力図はずいぶん代わりました。
父も母も、しかるべきときには姉の生きてきた記録として、
研究に役立ててもらうつもりがありましたが、当時これを明らかにするには、
関わってくれた先生方に迷惑をかける公算が大きいと父が判断し、
それで今まで、出せずにいたのです」



父……

病院のカルテを、個人で保管出来るような立場の人とは、

相馬さんのお父さんは、どういう人なのだろう。



「私、宇野先生が塾に面接でいらしたとき、
本当に心臓が止まりそうなくらい驚きました。こんな偶然があるのかと。
でも、それは後から偶然ではなかったのだと、もちろん気付きましたが」


話しの内容があまりにも大きすぎて、どこで口を挟めばいいのかがわからない。

僕はただ、相馬さんの話を聞くだけで、その出てくる事実を受け止めるだけで、

何も余裕がなくなってしまう。


「私のところに、このデータがあることを柿沼先生が知り、
自分を信じて託して欲しいとそう言われましたが、
私は……父の言葉をどうしても信じたくて」



そう、父親。

相馬さんの父親は……どういう人なのだろう。



「あの、相馬さん」

「自分に何かがあって、一緒に守れないときには、
父は『宇野柾』という男を頼りなさいと、そう私に言い残していましたので」



宇野柾……

それは僕のこと。



「柿沼先生から、宇野先生に関する話しは、色々と聞きました。
大学時代からの確執も、それに……あなたには私ではなく、
別にお付き合いをしている方がいることも……」


彩夏とカウンターのバーで飲みながら、親しげに話していたあの写真のこと。


「もちろん、どちらも宇野先生なのでしょうが、
私には、それでも、どうしても柿沼先生に託すということは出来なくて……」

「ごめんなさい」

「はい」

「申し訳ありませんが、少し、話を止めてもらえませんか」


ダメだ。このまま流れるように聞いていく話ではない。

彼女はわかっていることもあるけれど、どこか勘違いしているところもある気がする。


「僕がこんなことを言える立場ではないのですが、相馬さんは柿沼教授とは、
どういう……」


俗に言う『愛人関係』なのか、それとも、過去の女性の残した娘だから、

ただかわいいのか、それにしても、二人の間にはしっかりとした信頼関係があるのだと、

そう思っていた。


「……どういうとは」

「いや……その……」


『愛人関係』。直接そういうのは、あまりにも失礼だ。

でも、どう切り出したらいいだろう。


「あの……柿沼教授と、個人的にお付き合いを……」

「エ……あ、いえ、私は柿沼先生と、
個人的なお付き合いをするような関係ではありません。
柿沼先生には、何度かお会いしましたし、私の両親のこともご存知なので、
気にかけていただいたことは事実ですが……」

「それじゃ、お付き合いという形では」

「いえ、そんなことはありません。柿沼先生にはご家庭もありますし」



『愛人関係』ではなかった。



相馬さんの表情、言い方を見ていても、ウソではないだろう。

隠し子でもなければ、愛人関係でもなかった。


「今、ご両親をと言われましたよね」

「はい」

「お父さんは……」


相馬さんは、知らないのですかという顔をする。

彼女の父親……


「宇野先生、私の父親をご存知だと……何もかもを知って、
それで、塾へいらしたのではないですか」

「あ……いや……」


相馬さんの父親を、なぜ僕が知っていると思われているのか。

何もかもとはなんなのか、何もわからない。




「私の父は……『東城大学教授 岩佐幸志』です」




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