17 Reproduction 【再生】 【17-2】

【17-2】


「こういう堅苦しい格好は、あまり好きではなくてね」

「どうぞ、落ち着けると思って個室をお取りしたわけですから。
話しやすい体勢でお願いします」


富田さんはそういうと、襖を開け、料理を運んでくれるようにと頼みに行った。

大平先生の視線が、僕に向かう。


「あなたが……宇野柾さん」

「はい。すみません、こんな席に」

「いやいや、あなたにお会いしたかったんですよ」


大平先生は、ポケットから1枚の写真を取り出した。

映っている人名前を教えてくれながら、最後に岩佐教授の顔で指が止まる。


「若いでしょ、岩佐教授」

「はい。僕の知っている教授とはずいぶん違います」


大平先生は、岩佐教授から、僕のことをよく聞いていたと話してくれた。

父親を早くに亡くしながらも、夢をしっかりと持ち、努力し大学生活を続けていること、

研究のデータが思うように進まなくても、諦めることなく取り組む姿勢など、

僕自身も、これほど褒めてもらったことはないというくらい、賞賛をしてもらう。


「『食べること』は、人が生きていくうえでの根底、根の部分ですからね。
その研究を進めてきたという努力を、岩佐先生は本当に認めていらした」



『宇野……よくやったな』



そう、岩佐教授はよく褒めてくれた。

たいしたことではなくても、褒められることによって、さらに先へという気持ちが

大きく膨らむことが何度もあった。



空の上から、岩佐教授は、僕をどんな目で見ているだろう。



怒りの声を出せないことに、両手を握り締めているかもしれない。


「すみません、料理はすぐに来ますから」


富田さんがそこに戻り、まず乾杯のためのお酒が運ばれた。



富田さん、大平先生、そして僕。

準備の整ったグラスを、3人で持つことになった。


「それでは、まずは乾杯を」

「はい」


ガラスをあわせた綺麗な音がして、大平先生はワインを1杯、すぐに飲み干した。

久しぶりの日本だといういこともあり、出された和食が美味しいと、

大平先生は楽しそうに食事を進めていく。

しばらく今の医療の流れを語ってくれていたが、

グラスに入れた2杯目のワインがなくなる頃、昔の話が少しずつ出始めた。


「そうですか。もう、残された娘さんが28になったのですか」

「はい……先日お会いしました。相馬郁美さん、落ち着いていて、素敵な方でしたよ」


相馬さんの話。

大平先生は、当時、治療に関わった先生方が、智美さんが亡くなった後、

ひっそりと行われたお葬式に参列した話をしてくれる。


「岩佐教授を始めとして、ご家族は長い間、智美さんのことで苦しんでいたから、
どこかで覚悟をしていたのでしょうが、双子の一人でしょう。
ショックだったのでしょうね、智美さんの……いや、つまり郁美さんのお母さんは、
気持ちが動転していたのか、式の間、ずっと郁美さんのことを、
智美、智美と呼んでいて……」



『智美……』



「岩佐教授も、気にしていたようだけれど、そばに寄り添っていた郁美さんのほうが、
そのままでいいと言って、あえて否定をしてませんでしたね」


亡くなった姉の名前で呼ばれることを、彼女は受け入れていた。


「はい……。先日お話を伺った『ラボンヌ』の、当時の営業本部長の山口さんも、
同じ話をされてました」

「あぁ……山口さん。そうですね、彼も関わった一人ですし」


大平先生は、何かを思い出しているのか、目を閉じたまま、顔を少しゆがませる。


「苦しかったなぁ……耐えている郁美さんを見ているのがね」


自分は何も持っていないから、親に認められていなかったのだと、

以前、彼女はそう言ったことがある。

双子に生まれてしまったからこそ、同じ顔を持っているからこそ、

普通の苦労以上のものが、あったのだろう。


「『リーメック』が、これだけ一気に伸びてこなければ、
もう少し、この話も早く処理できたのでしょうが。
柿沼先生を始めとした力のある人たちが、
急に手のひらを返したようになりましたからね……」


『ラボンヌ』と『リーメック』

確かに今の勢いからすれば『リーメック』に分があるはず。


「それでもこうして、郁美さんの荷物を下ろしてあげることが出来て、
私もほっとしています」

「はい」


大学教授の娘に生まれながら、両親の都合で一緒には暮らすこともなく、

双子の姉が病気がちだったため、活発な部分を精一杯押さえ込み、

相馬さんは、いつも人に気をつかった生活を、し続けてきた。


自分にとっても、たった一人しかいない母親に、

顔を見ながら姉の名前を呼ばれる気持ちは、どれほどだっただろう。


僕は父を早くに亡くし、母一人子一人だったが、

向けてくれている目が、どこか別の方向を見ているようなことは、

一度もなかった。



『柾!』



暮らしが楽でなくても、思ったようなお金をかけてもらえなくても、

僕は、『愛されていた』という思いだけはしっかりと持っている。

何度言っても送られてくる生活用品や、急にかかってくる様子を伺う電話。

東京に出てくればいいと言っても、元気だからと跳ね返す母親の強さ。

全てが恵まれていたのかもしれない。



僕は、不幸な人間ではなくて、十分恵まれていたのではないだろうか。




【17-3】

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