17 Reproduction 【再生】 【17-4】

【17-4】


季節は2月。

受験の本番がやってきた。

この1週間前に、相馬さんの後に入った事務の町田さんが姿を見せ、

今日もまた、藤岡さんから、仕事をあれこれ引き継いでいる。


「えっと……入力はこれでいいですか」

「うん、OK。なかなか覚えがいいわよ、町田さん」

「そうですか?」

「そうよ、私なんて、何度相馬さんに聞いたことか……今考えると、
メチャクチャ迷惑な後輩だったと思うわ」


会話の中に、ふわふわと彼女の名前が登場する。

仕事をしていたときには、

相馬さんの方がどちらかというとのんびりに見えていたけれど、

藤岡さんの話を聞いていると、相馬さんの仕事振りは、相当速かったらしい。


「町田さん」

「あ……はい」


短大を卒業し、一度、どこかの事務職に就き、

ここは2回目の就職という町田さんは、年齢が24歳だと聞いた。

以前、相馬さんにストーカーまがいのことをしていた浪人生も、

新しい『花』の香りに気付いたのか、もう、名前を覚えている。


「これを、本郷先生に?」

「はい、お願いできますか」

「わかりました」

「ありがとうございます」


この受験が終わったら、みんな新しい生活へと旅立っていく。

1年生だったアレンも2年に、そして、俊太はいよいよ勝負の年になる。


「宇野先生。のど飴どうぞ」

「のど飴」

「はい。この時期は結構みなさんノドを痛めるんですよ。
相馬さんがいたときには、よく配っていましたから。これからは私が……」


藤岡さんにもらったのは、ハーブの入ったのど飴。


「ありがとうございます」


乾燥する季節、そして、塾の中は暖房が効いている。

講義をあれこれする講師ほど、ノドを使っているわけではないけれど、

確かに、違和感があるときが、増えてきた。

2つもらったのど飴をひとつ口に入れると、ポケットで携帯が揺れたため、

僕はすぐに開く。



『今日、会えない?』



彩夏からの変わらないメール。

そういえば、年が明けてから何度かメールをくれていたのに、

相馬さんの出来事があれこれ重なり、彩夏と会う時間が取れなかった。



『大西彩夏』

取引先の会社に出かけたとき、出会った女性。

いつものバーで待ち合わせて、時間がくればホテルの部屋へ入る。

その行動に、今まで一度も疑問を持ったことなどなかった。

お互いに納得していることなのだから、他の人と違っていても、

問題はないと、思い続けてきたのに。



『了解』



僕は彩夏にいつもの返信をしながら、ため息をひとつだけついた。





東京以外にも、世界に眠らない街はあるのだろうが、

これだけ建物が集中しながらも、統制の取れている街は、そうない気がする。

空を飛ぶ飛行機、海を走る船、高速道路を並び走る車に、

ホームで電車を待つ人。

全てが守るべきものを守り、毎日を重ねている。


「ごめんね、待った?」

「いや……少し前に来た」

「そう、よかった」


彩夏はいつものように現れ、コートを脱ぐ。

ウエイターが注文を取りに来たので、どうするのかと問いかけると、

『ミモザ』をオーダーした。


「柑橘系の気分なの」

「ふーん」


彩夏の喜怒哀楽は、昔からわかりやすい。

楽しいときには、本当に楽しそうに笑い、少しでも不安があると、

急に口数が減っていく。


「いい調子のようだね、仕事」

「どうして?」

「今日は明るいし」


僕は先に頼んでいたカクテルを飲み干すと、

カウンターの奥に並んでいる色とりどりの瓶を見た。

注文が入るたびに、その瓶が右に左にと動いていく。


「そうでもないです」

「ん?」

「いい気分でもないってこと」


彩夏はそういうと、ブレスレットをいじりながら、少し不満そうな顔をする。


「どうした、何かあったの」

「いいえ。近頃、私ばかりが柾を誘って、長い間断られて……
これは捨てられるのも近いのかなと、覚悟を決めているところ」

「は?」

「は? じゃないわよ」


チラッとこちらを見た彩夏の目は、冗談というものではなかった。

僕は軽く咳払いをし、何かつまみでも頼むかと尋ねてみる。


「最初から、約束事なしに始めた関係だから、メソメソなんてしないけれど、
せめて別れる前には、ちゃんと説明してよね」


別れる前。

彩夏のセリフに、意味もなく頷いてしまう。


「あ……」

「何」

「今、頷いたでしょ」

「今、頷かせようとしたんじゃないのか」

「違うわよ」


彩夏の喜怒哀楽からすると、今は間違いなく『怒』……ではなく、

『哀』だろう。僕はポケットに入れてあったものを思い出し、

それを取り出すと、彩夏の左手を取り、その手のひらに乗せた。




【17-5】

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