19 Silence 【沈黙】 【19-2】

【19-2】


『東城大学 理学部』

自分が卒業した大学だけれど、もう関わることもないと思い、

ホームページなども、あえて見てこなかった。

大嫌いな男が、素晴らしい人物かのように書かれていることも嫌だったし、

忘れたい思い出が、そのたびに蘇るのも、いい気分ではなかったからだ。



『柿沼栄三郎』



澤野さんが言っていたように、確かにあれからメディアの露出は減った。

とはいっても、子分が親分の代わりに出ているだけなので、

勢力図が変わったわけではない。



『東城大学 理学部 生物研究所』



北海道の苫小牧市、そこにはうちの学部の研究所がある。

理学部の中でも、バイオ研究の拠点がそこになったため、1、2年生の何割かが、

学生寮を使い勉強をする形が、数年前から行われているという。

僕が学生だった頃、この研究所があれば、

あのふてぶてしい男と顔をあわせずに、自然の中で思い切り研究に没頭出来ただろうか。


「ふぅ……」


『株式会社 ヴィーナ』


柿沼の妻が、経営者として名前を挙げている会社。

役員の中に、息子が二人。

そう、完全な家族会社。



『伊豆』



『ヴィーナ』のホームページの中に、伊豆について触れている箇所があった。

わさびの成分研究。元々わさびには、殺菌能力があるため、

石鹸や化粧品などの商品開発は盛んに行われている。

『ヴィーナ』はさらに、自然の力を利用したサプリメントの研究を、

進めて行くという意気込みが書いてあった。


「わさびか……」


相馬さんは確か、伊豆に戻っていたとき、わさびのことを話していた。

広い場所なのだから、それだけで決め付けられないが、

もし、借金が柿沼に関連するものなら、この土地に何かあるのかもしれない。

僕はすぐに、『ヴィーナ』がホームページに載せているわさび園の写真を印刷し、

それを引き伸ばす。



『協力生産者 清田ハル江』



この清田さんが持っているわさび田。

『ヴィーナ』に連絡をして、場所を聞けば教えてくれるだろうか。

僕は携帯電話を開き、ホームページに出ている番号をチェックする。



『相馬郁美』



そう、彼女の番号は、まだ携帯に残っている。

彼女なりに続けたい関係もあっただろうから、今でも、この電話は通じるかもしれない。

何か困っていることはないのか、そちらでの生活は充実しているのか、

直接聞いてしまうのが早いことくらい、十分承知しているけれど……



僕に、それをする勇気はなくて……



いや、あんなことをしたこの僕が、そもそもそんな心配をすることが、

おかしな話で……



『まとまったお金が欲しかったみたいで……』

『柿沼の奥さんがやっている化粧品会社が伊豆に……』



消せない胸騒ぎをどうにかするための行動。

ただ、それだけに徹することに決め、ホームページを閉じた。





『わさび』は、水の綺麗なところでないと、よく育たない。

植えたらすぐに商品となるようなものではないため、しっかりとした経験が必要だ。



『ホームページを見ていたら、素敵な場所だったので。
個人にも、売ってくださるでしょうか』



わさび田を持っている清田さんが、個人にもわさびを分けてくれるのかと、

『ヴィーナ』に連絡をしてみたら、おそらく大丈夫だろうが、もし、ダメだとしても、

その地域には、同じような生産者が数名いるため、行ってみればと教えてもらった。

病気がちな姉のために、母と娘二人が選んだ場所。

僕は書き出した地図の場所をナビに入力し、言われるままに車を走らせた。


魚が取れるような海沿いではなく、わさびは山の中で作られる。

雪解けの水が山肌から外に出て、綺麗な流れとなり、やがて海に注がれる。

今は、一年中、収穫も可能だそうだが、一番盛んに行われるのが11月。

そういえば、相馬さんが急に動き出したのも、確か去年の11月だった。


「このあたりだと……」


住所はこのあたりだと思うが、人の姿がない。

今日は作業が休みだというのだろうか。



『生産責任者 清田ハル江』



やはりここだ。間違いない。

少し奥にある作業場で、何やら機械の音がする。

そこに行けば、誰かいるだろうか。


「なんですか、何か用ですか」


背中の方から声が聞こえたので振り返ると、一人の女性が立っていた。




【19-3】

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