20 Meaning 【意味】 【20-1】

20 Meaning 【意味】

【20-1】


澤野さんや尚吾の言うとおり、いくら母親の作った借金があったとしても、

マンションを売却したお金以上のものを、個人で借りられたとは思えない。

双子の姉、智美さんのカルテを、お金という形にしたくないと言っていたのは、

郁美さん自身の思いでもあったのだから、

僕がこれ以上、あれこれ考えたりする必要など、ないわけで……


「……柾」

「ん?」

「どうしたの? 具合でも悪い?」

「あ……ごめん」


アレンに問題集を解かせていたことを、すっかり忘れていた。

20問近くあったはずなのに、答えは全て出されている。


「ごめん、すぐに見るよ」

「めずらしいね、柾がボーッとするなんて」

「たまにはあるよ、そういうときが」

「ふーん」


何をしているんだろう。しっかりしないと。

塾で、アレンや俊太の面倒をしっかり見るというのは、

彼女と交わした唯一の約束。



「柾さぁ、知らないかな、相馬さんの新しい住所」



相馬さんの住所。


「相馬さんの、住所って……」


急な話しに驚きながらも、アレンは彼女から何か聞いているのかもしれないと思うと、

鼓動が速まった。『新しい住所』というのは、どういうことだろう。


「相馬さん、塾をやめる前に、うちのお店へ来てくれたんだ。
お母さんのパスタ、褒めてくれて」


アレンの家は、塾の近くの喫茶店だ。

事務の藤岡さんにも、以前、美味しいからと勧められたが、

僕はまだ一度も行っていない。


「お母さんが、娘がたくさんご迷惑をかけたって、ちょっとしたプレゼントを渡したら、
向こうから美味しいものを贈ってくれて」


相馬さんは、アレンの家に、わさびを始めとした名産品を、

お礼のつもりで送ってくれたのだという。


「3月のテスト、いい点数取れたからって手紙を書いたら、返事をくれて」

「返事を……」

「うん。私も新しい場所で頑張っていますって」


アレンがカバンから取り出したのは、相馬さんがよこしたという手紙だった。

その筆跡には、確かに見覚えがある。

事務室で学生の名前を書いていた、少し丸みのある字。



彼女の字。



「夏休みが近いでしょ。そんな話をまた手紙に書いて送ったら、
今回は、『あて先人不明』で戻ってきてしまって」

「引っ越したってことか」

「……ってことなのかなと思って」


引越しした。

元の住所も、僕は知らない。アレンの手の中にあるハガキには、

その住所が記されているのだろうが、ちょうど指の位置に隠れていて、番地が見えない。



『見せてくれないか』



というのもおかしいし。

アレンの話しの通りだとしたら、今、前の住所を知ったとしても、

そこに彼女はいないわけで。


「柾、相馬さんの住所、知らないよね」


僕が彼女の住所を知っていたら、おせっかいだと言われても今の状況を聞きだし、

何か出来ることはないかと、問いかけているだろう。


「知らないな……」


そう、僕は、何一つ彼女の今を知らない。


「そうか……そうだよね。どうしたのかな」


アレンはそういうと、僕が採点をしている横で、一度大きく背伸びをする。


「うーん……」


いや、たとえ昔の住所だとしても、そこから彼女の行方がつかめないだろうか。

その住所を持ち、あのわさび田へもう一度向かえば、何か……


「アレン」

「何?」


彼女が望むことではないかもしれない。

それでも僕は、やはり今の状態のまま、何も知らない顔をして過ごせない。


「もう少し難しい問題を解いてみよう。
あの棚から『高校2B応用問題』というのを、持ってきてくれないか」

「棚? あぁ、あれね」


アレンは、手に持っていた彼女からのハガキを……



机の上に置いた。




【20-2】

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