20 Meaning 【意味】 【20-2】

【20-2】

『静岡県伊豆の国市……』



僕は、覚えた文字と数字を忘れないうちに、

計算用紙としておいてある紙の一番後ろに、書き込んだ。





「あぁ、難しいよ」

「難しいけれど、これくらいが解けるようになれば、理数系の大学も、
結構いい大学が狙えるぞ」

「うーん……」


難しいと頭をひねりながらも、アレンはギブアップせずに、

難問に取り組んでいる。答えの導き方は大正解とは言えないけれど、

解きたいという熱意が勝り、必死に答えを生み出してくる。


「どうだ!」

「よし、正解」

「やった!」


意欲があるというのは、すごいことだと思う。

ちょうど授業を終えるベルが鳴り、今日はここまでと問題集を閉じる。


「はぁ……集中した」

「確かにな」


アレンは授業中、横に置いていた相馬さんからのハガキをまた手に取った。

ため息をひとつつくと、無くさないようにカバンに入れる。


「私さ、相馬さんに言ったことがあるんだよね」

「言った? 何を」


また、勉強が楽しくないとか、塾へ来るのが面倒だとか、

そういったことだろうか。



「……死にたいって」



アレンの表情は真剣だった。

何を言っているんだと言おうとしたが、言葉が出ない。


「うちの両親、結婚していなくてさ。お父さん、イタリアに本当の家族があるから、
私が生まれてから少しの間だけ日本にいたけれど、
もう、こっちにはこないだろうなって」


以前、相馬さんから聞いた、アレンの複雑な家庭環境。

父親は、イタリアに家族がありながら、仕事でこちらに来ていたとき、

アレンの母親と一緒に過ごしていた。


「うちのお母さん、お店しているでしょ。愛想もあるし、私が言うのもなんだけど、
結構年のわりにはかわいいの。ねぇ、ほら、警察に来てくれた日、
お母さんに会ったでしょ? 柾、思わなかった?」


アレンにどうしてもと言われて、警察へ行った日。

あまりにも冷静な対応が気になり、それほど顔を見ていたわけではないけれど、

確かに、丸顔のかわいらしい人だった。


「あぁ、確かに」

「でしょ。だから、お客様から言い寄られることもあるけれど、
娘がいますから……って、いつもごまかして」

「ごまかしているわけじゃ、ないだろう」


アレンは首を何度も振りながら、悲しそうな笑い顔を見せた。


「アレン」

「私ね、柾。一度捨てられたことがあるんだよ、本当は」



捨てられた……



「捨てられたって……」

「お母さんにだよ……お父さんはすでにいないもん」


捨てられたとは、どういうことだろう。


「小学校3年生くらいの時かな。家に帰ったら誰もいなくて。
いつかお母さんが戻ってくるだろうと、テレビ見ていたのに、夜になっても、
戻ってこなくて……」


幼かったアレンは、家族の異常に気付きながらも、誰に話をすればいいのかわからず、

その日、不安な心を抱えたまま、一人で夜を過ごしたのだという。


「朝になったら、お母さんが戻っていると思っていたのに、起きてもいなくて。
外は雨で、どこか暗くて……。で、春休みだったから、学校もないでしょ。
家にあったパンとか牛乳とか食べて、昼まで待っていたら、向かいのおばちゃんが、
回覧板を持ってきてくれて……」


向かいに住んでいるおばさんは、地区の役員をしていたらしく、

アレンの話を聞き、すぐに母親がいなくなったのではないかと、警察に届けた。


「その日の夜、お母さん、何事もなかったかのように家に戻ってきたの。
『アレン、ごめんね』って」


知り合いの人と会って、トラブルに巻き込まれて帰ってこられなかったと、

お母さんはアレンに説明をした。


「でもさ、おかしいと思うでしょ。だから私、お母さんがお風呂に入っているとき、
部屋の隅にあったバッグを開けてみてみたの。そうしたら、洋服とか、靴とか、通帳とか、
そんな荷物が入っていて……」


どういう流れがあったのかはわからないが、母親は思いとどまり、

家に戻ってきたのだろう。


「それから、お母さんは私を怒らなくなった。ううん、一応怒るけれど、
言いあいになったり、叩かれたりすることはなくて……どこかで、
背負わなければならない荷物になっているんだなって……」



背負わなければならない荷物。



「アレン……」

「だから、大学なんて行くつもりなかったんだ。私が早く家を出れば、
お母さんだって自由でしょ。捨てていこうとした娘に、お金なんてかけることもないしさ。
それなのに、世間並みにやろうとするお母さんが、なんだか嫌で……」


難しい数学の問題や、わからない科学の記号なら、

色々と教えてやれるところだけれど、今のアレンの嘆きに、

ふさわしい言葉を、僕は何一つ持っていない。


「相馬さんに言ったの。誰にも期待されていないし、
自分も自分をたいしたヤツだと思えないから、死んじゃいたいなって……」


握り締める手紙。

残る彼女の筆跡。


「半分冗談だった。誰かに言いたかっただけかもしれない。
でも、相馬さん真剣な顔で、そんなことを言うのは絶対にダメだって、
そう怒ってくれた」


そう、彼女はそうだろう。

『生きる』ことの大変さと、難しさを、家族で痛感してきた人なのだから。




【20-3】

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