20 Meaning 【意味】 【20-4】

【20-4】

僕が会計を済ませると、彩夏はその場で新しい靴に履き替える。


「これ、捨ててもらっていいですか」

「……あ、はい」


今まで履いていた靴を、処分して欲しいと店員にお願いすると、

店員は、まだ履けそうだけれど、本当にいいのかと、彩夏に尋ね返す。


「いいの? もう」

「はい、いいです。お願いします」


彩夏の決断を聞き、店員は靴を後ろのカゴに入れる。


「だって、靴の箱を持ちながら歩くのも面倒だし。
つま先の形が気に入らなくなったから、きっと履かないもの」


彩夏は嬉しそうに僕の腕に手を回し、『ありがとう』とそう言った。

一度出たホテルにある、お気に入りの店へまた歩き出す。


「1杯だけ飲もう」


彩夏の言葉に、何も返事をしないまま、僕はただ歩き続けた。





少し前に彼女に買った靴が、部屋の入り口近くに揃えてある。

脱ぎ捨てた服が椅子の背もたれにあり、互いのバッグが、テーブルの上に並ぶ。

3年という月日を重ねてきた彩夏となら、都合のいい時にだけ会うような関係から、

抜け出せるのではないかと思っていた。


身体は十分満たされているはずなのに、

頭の中は整理がつかない状態になっている。


「柾……」

「ん?」

「何、見ているの?」

「うん……」


何を見ているのか、いや、何も見ていないと言った方が正しい。

僕が今見たいものは、ここにはない気がする。


「ねぇ、もうすぐ夏休みが取れるでしょ。少し遠出できない?」

「遠出?」

「そう。日本を飛び出しちゃうっていうのはどう?」


『夏休み』

また、特別講座などが組まれるだろうが、僕はその予定を入れていない。

澤野さんのロボット作りが終わり、別の同僚のアフリカ旅行がもうすぐ終了する。

取ろうと思えば、少し長めの休みは取れるだろうが。


「ねぇ……ダメ?」


僕の首に手を回し、彩夏は甘えるような声を出した。

振り向いた瞬間に唇が重なり、その甘えた声が、さらなる要求に変わる。


「わかった……」


あれこれ考えることが面倒だと思った。

彼女がそれで満足なら、彼女がそれで笑ってくれているのなら、

任せておけばいいという、そんな気持ちしかなく、

僕は誘われるままに、また身体を重ねていく。


『愛する』とはこういうことだっただろうか。

もう少し、互いを思いあい、会えない日のことを語り、

何もない時をから次の日までを、数えながら送るものではなかっただろうか。

その不思議な感覚を処理できないまま、僕は彩夏の吐息を受け続けた。





『静岡県伊豆の国市』



アレンが知っていた、相馬さんの昔の住所。

とりあえず、その場所がどういうところなのか、向かってみることにする。

走り慣れていない場所なので、ナビの通りに進んでいくと、

その建物は、昔ながらの豆腐店と美容室の間に挟まれた木造のアパートだった。

僕は少し広めの場所を見つけ、車を止める。

それほど古めかしいものではないので、

取り壊すから出て行ったなどの理由ではなさそうだった。



『わさびの里 白葉町へようこそ』



長く設置されていそうな、少し錆びた看板から、

新しく付け替えたように見える写真入の看板まで、

この土地の人たちは、『わさび』を活用し、その力で生活を作っているのだろう。

お土産ものを意識する旗も、喫茶店や和菓子店など、あちこちについている。



『佐野不動産』



相馬さんが以前住んでいたアパートの隅に、

管理者と思われる不動産会社の名前が記されてあった。

僕はそこに書いてある電話番号を回す。

3回呼び出しの音が鳴った後、『はい』という男性の声が聞こえた。


「あ、すみません。『佐野不動産』でしょうか」

『はい、そうですが』

「すみません、お忙しいところ。少し伺いたいことがあるのですが、
お店は、どこにありますか」


不動産屋に言わず、夜逃げしたという状態ではなさそうなので、

部屋を返したとなると、次はどこに行くのかという話題が、自然と出る気がする。

引越しをする理由が、不動産屋ともめているということでなければ、

次も同じお店で選ぶことだって、あるだろう。


「はい……」


僕は、男性のいう住所を素早くメモに取り、今からそちらに伺いますと、

受話器を持ちながら、頭を下げた。




【20-5】

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