20 Meaning 【意味】 【20-5】

【20-5】

『佐野不動産』



電話を切ってから気付いたことだけれど、

他の店舗にも『佐野不動産』のマークがいくつかついていた。

このあたりでは、力のある不動産業者なのだろう。

都心と違い、こういった田舎は、大手チェーン店が幅を利かせている場所ではない。

昔からの顔なじみや、長く土地に住んでいる人たちが、商売としているはず。

逆に、噂話などの余談も、あれこれ入りそうな気がする。

僕は、店の前にある駐車場に車を止め、横に流す形の扉を、ゆっくりと開けた。


「いらっしゃいませ」

「すみません、先ほど電話をさせてもらった宇野です」

「宇野……あぁ、はいはい」


この男性が、電話に出てくれた人だろう。

黒ぶちのメガネをかけ、僕の顔をじっと見る。


「どうぞ、こちらに」

「すみません、客ではないので結構です」

「いいんですよ、どうぞ、どうぞ」


部屋を借りに来たわけでもないのに、申し訳ないと思いつつも、

僕は言われるままにソファーへ座った。男性は、どうぞと麦茶を出してくれる。


「すみません、本当に何も結構ですから」

「いえいえ」


うちの母が住む田舎もこういった感じだ。

誰かがくれば、用件を聞く前に、まずしっかりと接待する。

店内には、どこかの記念品にもらった大きめの柱時計。熊が鮭を加えている置物。

『寄贈』と書かれてある真四角の鏡。タクシー会社の日めくりカレンダー。

幼い頃に見ていた景色に近くて、懐かしい気もしてしまう。


「聞きたいことっていうのは、なんですかね」

「はい……」


僕は住所を示し、このアパートに以前住んでいた相馬郁美さんが、

引っ越した先を知らないかと、ストレートに言ってみた。

プライバシーの問題も、今、騒がれているので、簡単に教えてはくれないだろうが、

手がかりを得られるとしたら、ここしかない。


「相馬さん」

「はい。昨年末、東京からこちらに戻ってきて、
この住所に住んでいたことはわかっているんです。
でも、郵便物が不明で戻ってくるようになって、今、どちらにいるのかと」


前の住所を知っているのだとアピールすれば、それほど怪しくは思われないはず。


「ご存じないですか」


彼女に会い、もう一度、話がしたい。

僕は、彼女が昔、このあたりに住んでいたことがあることも、あわせて語る。


「いやぁ……うーん」


『知らない』とは言わないけれど、ここで言うことは難しい、そういう顔に見える。

やはりダメだろうか。

こんな中途半端な状態では、難しいのだろうか。


「お客様、宇野さんって言いましたよね」

「はい」

「相馬さんとは、どういった……」



『どういった……』



どういった関係なのかと聞かれて、明確に答えられる関係性はひとつもない。

恋人でもなければ、友人といえるものでもない。


「あの……」


それでも、何か言わなければ、余計に怪しまれる。


「相馬郁美さんが東京にいるとき、働いていた塾の同僚です」


そう、同じ塾で働いていた。それはウソでもなければ、大げさなことでもない。

僕は、彼女を慕っていた学生が手紙を出し、それが『不明』で戻されたことを知り、

みんなで心配になったと、そう状況を説明した。

アレンが相馬さんのことを心配していることも、間違いない。


「塾の……」

「はい」


男性は少し考えるような仕草をした。

何かを決めたのか、その場で立ち上がる。

すると、後ろから一人の女性が顔を出してきた。


「相馬さんならね、清田さんのところに住みこみしているよ」

「おい!」



住み込み……



「お前……」

「いいんだよ、東京からわざわざ来たのだろ。教えてあげれば。
ハル江さん、すっかり、おかしくなってしまったんだ。
あの人、昔はあんな人じゃなかったのに、いい話ばかり持ち込まれて、
人が変わってしまったんだからさ」

「少し待てって。相馬さんに連絡を取って、それからだって遅くないだろう」


後ろから出てきたのは、ここの奥さんだろうか。

エプロン姿のまま、サンダルを履くと、僕の前に出てきてくれる。


「あなた郁美さんの同僚さん? 塾の先生?」

「……はい」

「おい、信子」

「うるさいわね、お父さんは。あのね、郁美ちゃんが言っていたって、
うちの娘の麻奈が聞いたんですよ、教えてあげないと、かわいそうでしょう」



麻奈……



「うちの娘とね、郁美ちゃんは昔、学校が一緒だったんですよ。
今、あなたが言っていたように、郁美ちゃんは昔もこのあたりに住んでいてね。
それから東京に出て、で、また、こっちに戻ってくるってことになるから、
部屋を探して欲しいと、久しぶりに連絡をくれて」


『佐野不動産』の一番末娘さんと、相馬さんは同級生だった。

その縁で、あのアパートを紹介したのだと、奥さんは話し続ける。

すっかり立場を取られてしまったご主人は、熊の置物がある机の椅子に、

黙って腰掛ける。


「そもそも、お母さんの借金でしょう。あの子が被る必要もないし、
ほっとけばいいって言ったんですけどね」

「信子……」

「ウソを言っているわけではないですよ。
ご近所だって、みんな知っていることじゃないの」


奥さんは、とにかく麦茶を飲みなさいと、僕に勧めてくれる。

話を聞くことが出来そうなので、僕はありがとうございますと頭を下げ、

麦茶をひとくち飲んだ。




【20-6】

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