21 Nascent 【新生】 【21-2】

【21-2】


のどかな場所。

都会のようにゴミゴミしたところはまるでなく、自然の移り変わりを、

自分の目でしっかりと確かめられるようなところだ。

『ストレイジ』で、ケースに入れた苗を見続けているけれど、

太陽と、風と、気温と、全てをデータ化することは出来ない。

ここに根付き、自然との闘いを制してきた植物たちほど、強いものはなくて。

教科書とにらめっこをして、生物のあれこれを教えるより、

ここで事実を見つめることのほうが、よっぽど勉強になる気がしてしまう。

カエルの卵も、鳥の巣作りも、虫たちの生態も、今、目の前にある。

しばらく運転席に座っていると、小さな女の子が自転車に乗り、こちらに向かってきた。

清田家の前で自転車から降りる。

僕はハル江さんの孫だろうと思い、『すみません』と声をかけた。


「……何?」

「ごめん、怪しい人じゃないんだ」


妙に近付くと、大きな声でも出しかねない。

僕は、ここに相馬郁美さんがいないかどうかと、問いかける。


「相馬? あぁ、いくちゃん?」

「いくちゃん……うん、そうかな」


郁美さんだから、いくちゃんと呼ばれているのだろう。

彼女は本当に、この家に住んでいるのだろうか。


「いくちゃんは、いません。お仕事中です」

「『わさび田』の方にいる?」

「……知らない。でも、おうちにはいない」


女の子はそれだけを言うと、門を開け、自転車と一緒に中に入ってしまった。

ここに大人がいないとなると、あの『わさび田』に行き、

彼女がいるかどうか、直接聞かないとならないが、

車で移動すれば、またここにすぐに帰っては来られない。

車に戻ろうかどうしようか悩みながら、しばらく道端の草花に触れていると、

門が開き、中から一人の男性が姿を見せた。

そばには、今戻ってきた女の子が立っている。


「郁美さんに、何か……」

「あ……すみません」


その男性は、ハル江さんの息子さんだろうか。

インターフォンを鳴らした時には、誰も出てこなかったのに。

その男性は、僕のことをじっと見た後、そばに止めた車の方に視線を動かした。


「東京から……ですか」

「はい」

「あ……そう」


あまり、歓迎されていないのだろうという空気は感じ取れたが、

ここは引き下がるわけにもいかず、僕は相馬さんがどこにいるのかと問いかけた。


「あなたは……」

「すみません、『宇野柾』と言います」

「宇野さん」

「はい」


僕は、彼女が東京にいたとき勤めていた塾で、一緒に働いたのだと説明した。

手紙を出した学生が、急に住所が代わり、

郵便物が『不明』になったことを心配していること、

さらに、僕自身が、彼女に聞きたいことがあってきたことなどを話した。

清田さんは、軽く頷きながら聞いてくれる。


「直接、話をしたくて、ここへ」

「……いませんよ、今」

「どちらですか、『わさび田』ですか」

「いや、そっちにもいません」


『いない』の連発。

ハル江さん同様、この人も相馬さんを隠すつもりだろうか。


「それでは、どちらに行かれているのですか」


簡単に引き下がれない。

『佐野不動産』で聞いたことが本当なら、このままにしておくわけにはいかないだろう。

柿沼がまた、何を企んでいるのか、わからない。


「集まりがあって、参加してもらっていますので」

「集まり……それはどこで」

「部外者は困るんだ。郁美さんには、うちの代表として行ってもらってますし……」


農家同士の寄り合いだろうか。それとも、もう少し大きな集まりだろうか。

どこで行われているのかわかれば、すぐにでも行けるのに。


「出直したら……どうですか」


清田さんはそういうと、娘さんと一緒に門を閉めようとする。


「今日中には戻られますよね」


この家に住んでいるのなら、戻ってくるはず。


「そりゃまぁ。何時だかわかりませんが」

「待ちますので」


隠されれば隠されるほど、ほっておけない。

話を聞いてしまった以上、彼女に会わずに帰れない。


「……そうですか」


清田さんはそういうと、頭を下げ、中に入ってしまった。

高い塀と、大きな木々に囲まれていて、門の中がどうなっているのか、

よくわからない。



『後妻』



彼女は、それを望んでいるのだろうか。

僕は、それが知りたい。





昼過ぎには静岡につき、『佐野不動産』に立ち寄り、清田の家に来たときはまだ、

太陽が高い位置にあったのに、今はすっかり日が沈み、街灯の少ない町の中で、

僕は真っ暗な車内にいる。

携帯を見ると、時刻は夜の10時を回った。




【21-3】

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