21 Nascent 【新生】 【21-4】

【21-4】


もう一度、門がゆっくりと開き、昼間に会った女の子が姿を見せた。

相馬さんは、その心配そうな顔に気付き、僕に頭を下げる。


「いくちゃん……どうして来てくれないの」


女の子は、口を曲げ、今にも泣きそうな声を出した。


「ごめんね、みずきちゃん、今すぐに行くよ。すみません、失礼します」

「相馬さん」


僕の前から彼女が消えると、暗闇の街は、さらに静かになった。





『別れに納得が出来ていない』



それは、僕の本音だ。

でも、相馬さんからは、認める返事はもらえなかった。


あまりにも少ない時間。

これでは……理解などしてもらえない。


清田家の中に戻った彼女と、話しがしたいからと、

今、強引に面会を求めるのは、おそらく無理だろう。

あらためて出直して……



話せる時間を、確保しないと。



僕は車の中に戻り、もう一度清田家の灯りを確認する。

どこにいるのかわからなかった人、でも、とりあえずいる場所がわかった。

それをしっかり頭に残しながら、東京に戻るため、エンジンをかける。





『別れに納得が出来ていない』



勢いのまま、口から言葉が出て行った。

でも、発言を後悔したり、考えを変えたりするつもりはない。

僕は、自分の思いに、やっと気がついた。

確かに、最初は柿沼の秘密を知りたいという理由で、相馬さんに近付いた。

でも、彼女を知るたび、彼女を見るたび、

『ゲーム』という条件がどうでもいいものに、変わっていた。

相手のことを思いやり、自分を犠牲にしてまで向かい合える人。

そのすがすがしいほどの思いに、僕自身が好意を寄せた。

岩佐教授の娘さんだとわかり、申し訳なさで一度は背を向けようとしたが、

持っていたパスルで、空いた場所を埋めようとしても、形がまるで違うために、

つながっていかなくて。

僕は、穴だらけの心を抱えたまま、ただ、一人時を過ごしていただけで……



『あなたとの日々が、僕にとっても、幸せにあふれていたものだったと……』



僕の本気度が伝わるように、ひとつずつ、問題をクリアにしていかないとならない。

次に、彼女の前に行くときには、まっさらな自分で向かおうと、

そう心に決めた。





『大西彩夏』


アドレスを呼び出し、話があるとメールを打った。

彼女に悪いところがあるわけではない。僕が一方的に悪い。

『求め合う関係』だった間柄を、変えようとしたのも僕の方で、

彩夏は女性らしい部分を見せ、その思いに精一杯答えようとしてくれた。

しかし……



『いつもの店でね』



行けなくなった旅行の、埋め合わせだとでも思っているのだろう。

彩夏らしい返事をもらい、僕は携帯を閉じる。



『私のことは、もう心配しないでください。
宇野先生が心を悩ませることではないですから』



あの人に近付くには、あの人のようにならないと……



本音を見せず、大丈夫だと念を押す顔が思い出され、

僕はより鮮明に彼女の顔を浮かべるため、ただ、じっと目を閉じた。





この店にいる数名のバーテンダーの中で、僕が一番うまいと思っている人が、

その日の担当だった。彩夏と待ち合わせをするときには、その後訪れる快感を予想し、

落ち着かない身体の熱を、アルコールで紛らわせていた気がする。

こんなふうに、ものすごく冷静に、冷めた気持ちで人を待つことなど、

この店ではなかったことなのに。


3年という月日、求め合うだけで先を見ることも、考えることもなかった。

相性というものがあるのが、男と女の仲だと思っていたから、

僕は一生、彩夏と待ち合わせて、生きていくのかもしれないと、考えたこともある。


「どうぞ」

「ありがとう」


互いの欲求が満たされたら、呼吸を整える状態を作り、

また新しい日々に向かう気持ちになる。

疲れた身体をリセットし、また新しいものを得るために、

流したいものは流してしまう、それが僕の求めていたものだった。



人は、息をして、鼓動をさせながら、命をつなげているのだと、

そう思い目を閉じると、浮かぶのは彩夏ではなくて……

荒い呼吸を聞きながら、鼓動が止まってしまう事がないのかと、

心配になりながら相手の胸に顔をうずめる。


思い浮かぶのは……

申し訳なさそうに、僕に手を伸ばしてくれたあの人のことで……


「ごめんね、柾」

「うん……」


彩夏の登場は、いつも通りだった。




【21-5】

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