21 Nascent 【新生】 【21-5】

【21-5】


彩花は僕の隣に座ると、大好きな柑橘系のカクテルを注文する。

今日は、仕事が早く終わったので、ネイルサロンに行ってきたと爪を見せてくれた。


「へぇ……」

「あ、いいわよ。柾の言葉の続き、わかるから」

「続き?」

「そう。そんな爪を見せびらかしているようでは、女子力は全くあがらないぞ……
でしょ」


彩夏は、自分は炊事や掃除など、女性らしいことはあまり向かないのだと、

ブレスレットに触れた。

僕は、何も言わないまま、カクテルに口をつける。


「仕事、忙しいの乗り越えられた?」

「……ん?」


言わなくては……

このまま、また、いつもの流れになってしまったら、彩夏に悪い。


「彩夏、今日は話があって」

「うん」


無防備な人に、切り出す話ではない気がするけれど、誤魔化せば傷が広がるだけだ。

悪いのは僕自身。彼女ではない。



「……別れて欲しい」



残酷な言葉だけれど、わかってもらえないのでは困る。

僕は、今までのいきさつを、彩夏に語ることにした。

僕が『SOU進学教室』という塾に入った理由、そこで出会った人。

どういう関係になり、どう別れを迎えたのか……

彼女の抱えてきた過去も、語ることになってしまったが、

全てを知ってもらったうえで僕の思いを語らないと、おそらく伝わらない。


「あくまでも『ゲーム』だと、そう思っていたのに、彼女が目の前から消えてしまって、
自分の思いが、どうにもコントロールできなくなった」


会いたいときに会うことが出来たら、その他の時間など、奪われたくないと、

そう思って生きてきた。相手のことなど考えたり、自分を犠牲にしたりするのは、

相手に溺れてしまった人間のすることだと、

どこかでバカにしていたのかもしれない。


「その人を……どうしても忘れられない」


彼女が『幸せ』になるのを確認できたら、それで満足できると思っていた。

しかし、彼女自身に再会したとき、そうではないのだということに、気付いてしまった。

彼女を、自分の手で幸せにしたい。

だから……


「何よ……それ」

「ごめん」

「ごめんじゃないわよ」

「あぁ、悪いのは僕だ。何を言われても仕方がない」

「柾、私に言ったでしょ。これからは少し変えてって……」

「うん」


彩夏との付き合いの方が長いのだから、そう思っていたことも間違いない。


「君との付き合いの方が長いことは間違いなくて。
だから、今まで知らない部分を知り合うことが出来たら、
きっと、それでうまくいくと、そう思っていた。でも、違うんだ」

「違う?」


どう説明したらいいだろう。

僕が、相馬さんに惹かれたものは……

彼女にしかないもので。


「彩夏は彩夏で、彼女とは違う」

「当たり前でしょう、そんなの」

「あぁ、それもわかっているけれど、でも……」


彩夏は出されたカクテルを飲み干すと、一度大きくため息をついた。

そして、僕の脚に手を置くと、身体を預けるような仕草をする。


「私は嫌よ……そんなの」

「彩夏」

「離れられないもの。ねぇ……こうしていたら、わかるでしょ」


彼女の指、艶やかな唇。

酔いの回った状態の仕草に、僕は何度も鼓動を速めてきた。

互いに、全てを解き放とうと、耳元にキスを落とし、店を出たことも何度もあった。


「おかしな情に、気持ちが振り回されているだけよ」

「彩夏」

「不幸な女は、かわいそうに思えるから、だから……」


僕は、そのセリフを聞きながら、僕の脚の上にあった彩夏の腕を離した。

引き剥がされたという彼女の表情と、冷たい空気。


「柾……」

「不幸だから、その人を好きになったわけじゃないんだ」


相馬さんは、自分を不幸だという目で、見ていない。

むしろ、こうして生きていることにいつも感謝し、周りを見る優しさを持っている。

嘆いたり、悔やんだりすることが、どれだけ前向きな人生の邪魔をするのか、

誰よりも知っているから。



『幸せな時間でした……』



人として最低なことをした僕に対しても、責めたてるようなことは何もなかった。

自分を追い込み、父親を蹴落とした柿沼のことも、追いやることをせずに、

彼女は、自分を貫き通した。


「僕は……」


彩夏は、僕の腕から自分の手を振り払うと、席を立った。

バッグから財布を取り出す。


「部屋……取ろう、柾。もっとゆっくり話せば……」

「いや……」


彩夏を嫌いになったわけではない。

部屋に行けば、また、求め合う気持ちだけが、一人歩きするかもしれない。

割り切っている関係だった頃なら、その場限りだと笑うことも出来た気がするが、

今はもう……


「……部屋は、取らない」


抱き合うことは、出来ない。




【21-6】

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