22 Promise 【約束】 【22-2】

【22-2】


「秋野の兄、特に一番上の兄は優秀でしたからね。おそらく大学も……」

「えぇ。その費用もこともありますので、俊太までお金が回らなくなったと」


経済が少しずつ上向きだという話しもあるが、

まだ、それほど感じられない人たちも多い。

借金が大きくならないように、手を打とうとしている両親の決断を、

僕らが責めることが出来ないのは、当然なのだけれど。


「秋野君、近頃本当に頑張っていたので、残念ですね」

「はい。私も本当に残念です。『海南』合格者が塾から出るというのは、
なかなかないことですしね」


俊太……

苦手だった生物にも、必死に取り組んで、遊ぶことも我慢し、

親から褒められなくても、必死に前を向いてきたのに。


「俊太は……あいつはもう」

「ご両親が話をしたそうです。塾のことも話して。
俊太が希望するのなら、また、あらためて別のコースに通わせたいと」


別のコースというのは、高校進学用のコースだろう。

中高一貫校ではない私立高校も、まだたくさんある。


「先生方には、俊太の力になっていただいていただけに、本当に申し訳ないのですが、
今、この段階で、別の生徒の中に組み込むことが難しいため、
少し収入の面で……」


教室長から続けられている金銭面の話し。

僕の頭に浮かぶのは、この間、嬉しそうに笑っていた俊太の顔だけで、

話しの内容は、全く入ってこなくなった。



あいつはもう、塾に顔を出さないだろうか。



いや、もし顔を出してくれたとき、僕はあいつに、何を言えばいいだろう。



彼女なら……

こんなとき、俊太にどんな言葉をかけただろうか。

何度も二人で通った店で、そんな会話をしたくなった。





「それじゃ、今日はここまで」

「はい、ありがとうございます」


俊太とアレンの曜日ではない日に、僕は2名の高校生を担当している。

二人ともとても優秀で、一人は僕の母校『東城大学 理学部』を目指していた。

学生のファイルを棚の中に戻す。

『秋野俊太』と書かれたファイルは、まだ、いつもの場所に残されていた。





「へぇ……そういうこともあるのか」

「あぁ、もう塾に顔を出さないだろうけれど、なんだか切なくてな」

「まぁな」


その週末、久しぶりに尚吾と酒を飲むことになった。

尚吾は、ウエイターを呼び、あれこれ注文を済ませると、ネクタイを緩める。


「うちは父親がいなかったからさ、
最初から私立なんて行こうという選択肢もなかったけれど、
目指していて急に奪われるのは、力が抜けただろうなと」

「まぁ、そうだろうな。俺はその子と同じ私立受験組だから、
脱力する気持ちはよくわかるよ。だってさ、同じ年の子供たちが遊んでいるのに、
自分だけ塾通いだろ。わかっているつもりでも、気持ちは疑問符だらけでさ」

「うん……」


尚吾は、1つ上のお姉さんが同じことをしていたので、

なんとか続けられたが、自分だけなら無理だったのではないかと、分析する。


「お前はな、忍耐とか縁がなさそうだもんな」

「ひでぇな、柾」


大学の頃から、ひらめきタイプだった尚吾。

その代わり、あまりこだわることなく、次を選択できた。

サラリーマンとなっても、妙なストレスを溜めずに頑張れているのは、

そういう前向きな性格だからだろう。


「……で、どうなの? 少しはその気できた?」

「その気?」

「あぁ、言っただろ、前に。彼女の姉さんと、付き合ってみないかって話し」

「は?」


そう、そういえば、尚吾がそんなことを言ったことがあった。

長い間付き合っている女性と結婚したいが、お姉さんが先にしないと、

親が許さないという話し。


「バカなことを言うな。お前と兄弟なんてまっぴらだ」

「おやおや……」


尚吾は、お前ほど俺の評価が低い人間はいないと、笑いながらそう言った。

別に尚吾の評価が低いわけではない。

あまりにも近いので、いつまでも仲間意識しかないというのが本音。


「手紙……出したんだ」

「手紙? 誰にだよ」

「相馬さん」


そう、突然尋ねてからすぐと、それから先日、合わせて2通の手紙を出したが、

彼女からの返事は届かない。


「相馬って、あの人か」

「うん……」


彩夏との連絡も、何度も送っているが、向こうからも何も返事がなく、

僕の状況は、完全に止まっている。


「お前……」

「あんな出会いで色々とあって、仕切り直しなど無理だと、そう思っていた。
自分が最低な男で、彼女にとっては、二度と思い出したくないかもしれないと、
そう考えて、別の道を選ぶつもりだったけれど……」


生き方を少し変えていこうと、そう決めたはずなのに……


「思うのは、彼女のことだけだった。お前にも、澤野さんにも言われたよな。
やめておけって。でも、出来なかった」

「柾……」

「彼女が幸せなのかどうか、知りたいと思って伊豆まで行って……」

「行ったのか、会いに」

「うん」


僕らの前にウエイターが立ち、注文したものを順番においていく。

テーブルの上は、あっという間に食べ物だらけになった。




【22-3】

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